成功確率50%の目標設定で自らの成長を促す

そうやってやる気にスイッチが入った後、それをテコにスキルアップを図っていくのに有用なのが「フロー」と呼ばれる状態だ。枝川氏によれば、仕事などのスキルと難易度の関係性はやる気に大きく影響しており、そのバランスが調和して、心地よく感じるスペースがあるという。それが心理学者のチクセントミハイが提唱する「フロー」である。

「フロー状態は内発的動機付けが非常に強く、やる気に満ちています。やること自体が楽しく、外部の音が聞こえなかったり、時間を忘れるといった状態がフローです。実はこのとき、脳内ではドーパミンが放出されています」(枝川氏)

フローから外れた上の部分は、スキル以上の難易度の高い仕事を与えられたときで、不安を感じる領域になる。一方、フローより下側は、難易度が低いため逆に退屈に感じてしまう。そこでスキルと難易度のバランスがとれているフロー状態をキープするために、スキルアップに応じて仕事のハードルを少しずつ上げていく。その際に重要なのが、設定する目標の難易度の高さだ。

「心理学と脳科学の研究から、ハードルの高さは成功確率50%のときにやる気が最も高いことがわかっています。成功体験によりセルフ・エフィカシーが高まり、スキル向上も伴うと、難易度の高い仕事を好むようになります。そうやって仕事のレベルを上げていくのが理想的なのです」(枝川氏)

10%アップの水準に設定するのが最適

大儀見氏も同様の見解を示すが、目標達成に向けた1歩目の水準は、前回の110%、つまり10%アップの水準に設定するのが最適という。

「ある実験結果によると、1歩目は高すぎても低すぎてもよくありません。学校の中間試験で50点だった子どもに、期末試験で100点をとれといっても、『どうせムリだ』と思って諦めてしまう。しかし、目標が前回の110%だと55点でよく、『5点だったらできるかもしれない』と思って机に向かい、集中力も上がる。そして目標を達成すると、『もっと高い点数をとりたい』という意欲が湧き、進んで勉強し始めます」

このように生まれた内発的なやる気を持続的に向上させていく際に、深く関係してくるのが脳内物質であり、枝川氏は次のようにいう。

「最初に目標を与えられたときに分泌されるのが緊張に関係するノルアドレナリンです。これが多くなりすぎると不安感が強まりますが、適度であれば集中力が高まってパフォーマンスが上がります。いわゆる“お尻に火が付いた状態”です。そして目標の達成に際して、今度はドーパミンが放出され、クリアすればセルフ・エフィカシーが高まる。それを繰り返しながらハードルを上げていくことで、外発的動機付けが内発的動機付けに転換していくのです」

そうやって自らやる気のスイッチを入れて走り続けていく際に、大儀見氏が大切にしているのが「快適自己ペース」だ。長い時間ジョギングを楽しめる人は、自分のフォームとペースをしっかり持っており、それがモチベーションの維持にもつながっているのと同じこと。職場でいえば「仕事での勝ちパターン」と「自分にとって1番いい仕事のリズム」といってもいい。