まずは信頼関係を築くこと

部下が書類を作成しているときに、「頑張っているね」とひと声かけるだけでもいい。要は結果が出るまでの間、努力している姿を認めるのだ。そして結果が出たところで、その出来栄えを褒める。そこで部下との信頼関係ができ、上司のいうことを納得して受け入れるようになる。枝川氏も次のように述べる。

「部下の真のウォンツを見つけるためには、まずは信頼関係を築くことです。部下に関心があることを、言外も含めてメッセージを送る。そうして心がつながっていくと、脳のなかでオキシトシンという『信頼ホルモン』『愛情ホルモン』とも呼ばれる物質が分泌されます。このような状態になると、信頼関係が強固なものになっていくのです」

神経細胞(ニューロン)の間で情報を伝えている化学物質の神経伝達物質は約100種類あるが、特に感情や心の状態に大きな影響を及ぼすのが、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなのだ。

ノルアドレナリンは興奮性の神経伝達物質で、これが多くなると不安や恐怖、怒りが増す。特に緊急事態の際に働き、外からのストレスに対応しようと、脳の活動や集中力を高める。その結果、トラブルへの対応や急ぎの仕事などについて、「やらなければならない」というプッシュ型のモチベーションがアップする。

ドーパミンは「快楽物質」とも呼ばれ、多量に分泌されると快感や喜びの気持ちが高まる。新しいことを始めるときにワクワクしたりするのもこの働きによるもので、「もっとやりたい」というプル型のモチベーションを高める。セロトニンは、この2つの活動を調整し、不安感を低め、精神を安定させ落ち着かせる作用がある。これにより、次第に「やめたくない」という気持ちになり、持続的に目標達成に挑み始める。

無理やりの外発的動機付けであっても構わない

「やる気を出す」「やる気が出ない」など、我々は日常的に「やる気」という言葉を使っているが、「やる気」とは何かと問われると、意外に戸惑うはず。

数多くのスポーツ選手やビジネスパーソンにメンタルトレーニングに基づいた指導を行うメンタリスタ社長の大儀見浩介氏は、「やる気とは最終目標に向かってプランを立て、具体的なプロセスをつくることで、湧き上がってくる『いけそうだ』『できそうだ』という気持ちのことです」と定義し、次のように語る。

「この内発的なやる気、いわゆる『内発的動機付け』は伸びていくための理想的なやる気ですが、自分でしかつくることができません。なぜなら、やる気が上がったというのを感じ取れるのは自分だけだからです」