実は、やる気に対するメンタルトレーニングからのアプローチは、脳科学の分野からのアプローチと通底している。カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱する「セルフ・エフィカシー」という概念がある。これは「人」「行動」「結果」の3つの関係性を分析したもので、人と行動の間には「効力予期」、そして行動と結果の間には「結果予期」が存在している。

部下の内在化を積極的にサポートする

前者は具体的な結果は見えないものの、行動すれば何らかの結果が出るだろうと意識し、とにかく走り出そうというような状態のこと。後者は、どういう行動をしたら、どういう結果につながるかがイメージできている状態で、結果予期力の高い人は適切な行動がとれるようになる。その結果予期は、大儀見氏のいう「プランとプロセスを通じたやる気」と同様のものと考えられ、それを高めることで自信がつき、効力予期も向上してより積極的な行動に移っていく。

前に触れたように、やる気の理想形は自分の内部から生まれる「内発的動機付け」によるものだが、なかなかそう上手くはいかないのも実情だろう。そこで、アメとムチなどを使った「外発的動機付け」からスタートするのも有効だと大儀見氏は話す。

「外発的動機付けはよくないとされてきましたが、最近の『自己決定理論』という新しい考え方では、両方を組み合わせています。初めはムリヤリでも嫌々でも構わないのでやり始め、その状態から徐々に内発的動機付けに変えていくものです」

そのように外発的動機付けから内発的動機付けに少しずつ変化していくことを「内在化」という。やり続けるなかで、自己決定や自己選択する力が培われることによって内在化が進む。もっとわかりやすくいうと、自分で目標を立てる力、課題をつくる力を自然と身に付けていくことが内在化なのである。そして、部下の内在化を積極的にサポートするのが上司の役割だと、大儀見氏は強調する。

「上司には部下との信頼関係を構築し、失敗や成功を受け止める環境づくりが求められます。1番ダメなのは、選手や部下がミスを隠そうとしたり、失敗をとりつくろおうとするような環境です。失敗に気づき、経験、成長、進化のきっかけと捉えると、ミスを次に生かしていけます。こうしたミスを受け止められる環境づくりが、職場の上司の重要な役割なのです」

さらに、外発的動機付けから内発的動機付けへの転換について、新井氏も次のように述べる。

「承認することでやる気になってくれればベストですが、納得するまで待っていられないときもある。そうした際には外部から内部を整えます。たとえば、心理学者のレナード・ズーニンが提唱する『初動4分の法則』の活用です。嫌な仕事や厄介な仕事は後回しにしがちですが、最初の4分だけ無理にでも集中して頑張る。そうすると気分が乗ってきて、どんどん進むようになるのです。その結果、やる気も自ずと高まります」