「いいとこ取り」は永続しない
これら3つの要因に支えられる形で、足元の世界経済はいわば「いいとこ取り」の環境に置かれてきた。しかし2018年以降まで「いいとこ取り」が継続するかと問われると、疑問の余地は大きい。
まず、在庫循環はあくまで短期的な要因であり、その回復・積み増し局面は遠からず終焉を迎える。また、ECBが今まで続けてきた金融緩和の一つである量的緩和の縮小計画を2017年内に発表することが確実視されている中、欧州各国が財政拡張のモメンタム(方向性)を維持できるかは疑わしい。これらの要因による米欧経済の押し上げ効果は、徐々に剥落していく可能性が高い。
さらに、中国の共産党大会は2017年10月に行われ、それ以降は政策的な景気のテコ入れを行う誘因は後退する可能性がある。また、そもそも資金流出の抑制は副作用を伴う政策でもある。すなわち、前述したような資産価格の高騰や、元高に伴う国際競争力の低下に加えて、海外投資機会の逸失といったコストを伴う政策に他ならない。
以上の議論を総括すると、現在の世界経済を支えているのはあくまで短期的な要因であり、2018年以降は一旦減速・スピード調整の局面に入る可能性は大きいということになろう。人は概して、経済環境が好調な局面ほど、過去のトレンドを線形に伸ばしてバラ色の未来を描きがちである。このように安易な楽観論にくみして思わぬ「落とし穴」にはまってしまわぬよう、環境の良い時こそ、その背後にある構造的な要因を深掘りした上で、現実的な将来のシナリオを検討すべきだ。
大和総研 エコノミスト
2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。11年より海外大学院派遣留学。米コロンビア大学・英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。日本経済・世界経済担当。各誌のエコノミストランキングにて17年 第4位。