変化に対応できる企業とできない企業の差は何か

いずれの考え方にも前提があります。つまり、ポーターの戦略は「環境は安定している」という前提、バーニーの戦略は「VRINの要素を持った資源を一度確立すれば、その有効性が続く」という前提です。しかし、先述の通り、現在は環境の不確実性が非常に高くなっています。次々と新しいテクノロジーが生まれ、競合は業界の壁を越えていきます。そのような状況では、競争優位な資源も変化していくはずです。そこで、ダイナミック・ケイパビリティが注目されるようになったのです。

ダイナミック・ケイパビリティは、1990年代後半にカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデビッド・ティースが提唱した考え方です。まだ新しい概念だけに、研究者によってさまざまな考え方がありますが、ここではティースの考え方を中心に紹介します。

ケイパビリティとは、企業が持っている資源を価値のある活動に変換するために必要な知識や能力、プロセスのことで、組織の力と言ってもよいでしょう。ケイパビリティには、一般的ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの2つがあります。一般的ケイパビリティとは、ものづくりや資材の調達、マーケティングなど、オペレーションを円滑に実行するための力です。それに対して、より高い次元から、そうした一般的ケイパビリティを適切に組み替える力がダイナミック・ケイパビリティです。

なぜ富士フイルムは生き残れたのか

ダイナミック・ケイパビリティの有無が企業の将来を大きく左右した例として、イーストマン・コダックと富士写真フイルム(現・富士フイルム)が挙げられます。21世紀に入り、デジタルカメラが普及し写真フィルム事業が衰退する中で、コダックは12年に経営破綻してしまいました。一方の富士フイルムは、医療機器や化粧品をはじめ、多角的な事業を展開しています。このように、同じ資源・ケイパビリティを持っていても、環境変化に対応できない企業と対応できる企業が存在します。その差は、環境の変化に合わせて、あるいは変化を先取りして、資源・ケイパビリティを組み替えるダイナミック・ケイパビリティを持つか否かで決まると言えるでしょう。

一方で、ティースは「シグネチャ・プロセス」、すなわち企業の歴史に根差した物事の仕方も大事だと述べています。創業者のビジョンや企業の歩みを変化に反映させてこそ、他社に模倣できない強みになっていくというのです。変化といっても、それまでの企業の歩みを無視した仕方では、競争優位の確立は難しいでしょう。