「頭脳労働が先に消滅し、肉体労働が残る」という誤算

昨年から今年にかけて、囲碁や将棋の世界でトップランクの棋士が人工知能に敗れるという事件が話題になった。将棋界には棋士の強さを表すレイティングというスコアがあって、名人クラスのプロ棋士は3400ぐらいのスコアなのだそうだ。

スコアで500の差があると将棋の対局相手としては歯が立たないらしいのだが、現時点で最強の人工知能には4000近くの実力があると言われているのだ。

「人工知能の将棋なんて、単なるプログラムだ」と言われ「弱過ぎて相手にならない」と言われていた時期から数年で、人間の最高峰の棋士が相手にならないと言われる時代が来てしまった。そうなった最大の理由が、人工知能が深層学習(ディープラーニング)できるようになったためだ。

それまでのプログラムは作成者が「こう言う計算をしたうえで最善手を打つ」というプログラムを自分で作っていたのだが、今の人工知能は「どう戦うのがより強いのかを自分で学習する」力を身につけた。これが深層学習だ。プログラムが最強棋士の棋譜を読んで学習し、プロ棋士の強さを学びとってしまってプロ棋士よりも強くなるという現象が起きたのだ。

クリエイティブな仕事のほうが先に消滅する

実はこの技術は、多くの仕事に転用可能だ。金融商品のトレーディングの仕事を人工知能が深層学習すれば、早晩、デイトレーダーは人工知能には勝てなくなる。銀行業務の中で一番重要な「取引先の信用度を検討して融資を実行する」という仕事もフィンテックによって近々、人工知能が代行するほうが焦げ付きが減って安全になる。

人工知能のほうがロボット技術よりも先にブレークスルーを起こした。頭のほうが手足よりも先に人間を超えそうなのだ。このことが意味することはこれから15年の間に「頭脳労働が先に消滅し、肉体労働だけが残る時代が来る」ということだ。

ここが知識階層にとっての最大の誤算である。つい5年前までは「近未来では簡単な仕事はどんどん機械に置き換わるようになる。生き残るためには頭を使うクリエイティブな仕事につくべきだ」と言われていたのに、今やそのクリエイティブな仕事のほうが先に人工知能に置き換わり消滅しようとしている。

では、みじめな未来を向かえないためには何をすべきなのか? 具体的な処方箋を著書『仕事消滅』にまとめている。興味をもたれた方はぜひお読みいただきたい。

鈴木貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ。東京大学工学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。過去20年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。人工知能がもたらす「仕事消滅」の問題と関わるようになる。著書に『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)などがある。
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