「がんは対岸の火事ではない」
妻が41歳で乳がんになるまで、私たち夫婦はこれといって健康に気を遣うことはありませんでした。仲はいいほうだと思っていましたが、とくに夫婦愛を深めるようなことはしていませんでした。乳がんの宣告は、まさに青天の霹靂で、そのときまでがんは対岸の火事でした。そのため、どうしていいのかわからないことの連続でした。
妻の乳がん告知から6年ちょっと、少しはマシになったとはいうものの、相変わらず私はダメ夫です。自分の器の小ささ、心の醜さに驚愕し、反省することもしばしばです。この先、わが家はどうなるのだろうか、という不安の拭えない状態が続いています。それでも改善できることはないか、妻とよく話し合うようにしています。少しずつではありますが、そうすることで、確実に夫婦愛が深まっていくと思うからです。
健康な人に、「がんと闘うには夫婦愛が必要だ」と話しても、みんなピンと来ないようです。私の妻は、自分が亡くなった後の話をよくします。聞いていて、かなりつらいのですが、よりつらいのは妻のはずです。それでも自分が亡くなってからの娘のことについて、私に話すのです。嘆きながら話すのではなく、娘のことを愛しているからこそ、心配だからこそ、現実から目を逸らすことなく、気丈に話すのだと思います。海老蔵さんの会見でも、以下の発言には特に胸が締め付けられました。
「(長女の)麗禾(れいか)は、きのうは、ずっと麻央のそばを離れませんでした。そして、彼女の横で、ずっと『寝る』といって、寝てました。(中略)きょうの朝も、麻央の横になっているところに、2人が麻央の顔をさわったり、足をさすったり、手を握ったり。そういうところを見ると、私が今後、背負っていくもの、やらなくてはならないこと、子どもたちに対して、とても大きなものがあるな、と痛感しました」
麻央さんは亡くなる2日前まで闘病ブログをつづっていました。読者の数は約260万人に達し、その影響力の大きさから、昨年11月には英BBCから社会に影響を与えた「100人の女性」の1人に、日本人として初めて選ばれました。このブログを読むと、がんの闘病において夫婦愛がどれだけ重要であるかがわかると思います。麻央さんの遺志は、一連の話を単純に美化するのではなく、得られた知見をこれからの闘病に役立てていくことであるはずです。
では、夫婦の愛を深めるにはどうしたらいいのか。まずは話をする機会を増やすところから始めましょう。そして「聴く」「話す」という場面で、相手の気持ちを考える。そうした小さな心掛けでも、少しずつ信頼関係が深まっていくはずです。
難しく考える必要はありません。大事なのは「ありがとう」のひと言。日々のちょっとしたことの積み重ねです。夫婦の愛を深めておければ、いざというとき、お互いの負担を減らすことができます。照れくさいかもしれませんが、ぜひチャレンジしてみてください。