実践編:過去の事例で不正を見抜く

▼重視すべきは事業CFの出入り

CF計算書は先の会計ビックバンで00年3月期から導入され、貸借対照表や損益計算書と合わせて「財務3表」の一つに数えられるようになった。会社の活動を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに分け、現金(キャッシュ)の増減(フロー)を示す。つまり、1年間にどれだけ現金を増やし、もしくは減らしてしまったかを明らかにする重要な決算書なのだ。

「企業が永続を目指す以上、営業活動は当然のことながらプラス(黒字)で推移していくことが求められる。その反対に投資活動は、設備の購入や研究開発、M&A(買収・合併)などに現金を使うわけだから、通常はマイナスになる。原則として投資の支出は、営業CFの黒字の範囲内で行われることが望ましい。営業CFと投資CFを合算したものを私は『事業CF』と呼んでいて、この事業CFにおけるキャッシュの出入りでマイナスが続くと、深刻な経営状態にあると判断せざるをえない」

そう話しながら前川氏が提示してくれたのが、表にある3社の決算データである。株式公開会社であったプロデュース、エフオーアイ、アイ・エックス・アイともに、経営が順調であるかのように装っていた。

「しかし、内情は“火の車”のような状態で、いずれも経営破綻してしまった。その歪みを決算データから読み解くことができる」と前川氏はいう。それではトレーニングのつもりで、データを個々に検証していくことにしよう。

プロデュースは新潟県長岡市の工作機械メーカーで、成長企業との評判が高かった。しかし、08年9月の証券取引等監視委員会の強制調査で決算書が粉飾されていることが判明。同社は05年12月にジャスダックに上場以来、帳簿や伝票上だけで複数企業間の売買を繰り返す“循環取引”をしていた。

そのため損益計算書の売上高は、06年6月期の58億8500万円から翌期には97億400万円へほぼ倍増。経常利益も5億9400万円から12億500万円とやはり倍近く伸びている。

しかし、営業CFは8億5900万円のマイナスから、9億6700万円のマイナスへマイナス幅を膨らませた。その結果、投資CFと合算した事業CFも、15億4000万円のマイナスから23億8000万円のマイナスへ、そのマイナス幅を膨らませている。

次のエフオーアイは、神奈川県相模原市を拠点とする半導体製造装置メーカーだった。同社は09年11月のマザーズ上場に際して、09年3月期の売上高が実際は3億1900万円だったにもかかわらず、118億5500万円と記載した有価証券報告書を提出。そして、一般投資家からおよそ52億円もの資金を調達する。

同社の場合も、粉飾で糊塗された損益計算書は非常に見栄えのいいデータになっていた。しかし、09年3月期の営業CFは35億5000万円のマイナス、事業CFも36億4100万円ものマイナスで、散々な内容になっており、「どうして上場できたのか不思議なくらいだった」と前川氏はいう。

また、大阪市内にあったシステム開発会社のアイ・エックス・アイも、損益計算書の利益はプラスで推移していたものの、事業CFはマイナスが続いていた。実は、同社はナスダック・ジャパンに上場した02年春頃に循環取引を本格化。表にデータはないが、02年3月期に25億9100万円だった売上高が翌期に55億2400万円へ伸びたものの、その大半が水増しだったのである。結局、営業CFはそれに比例して伸びず、06年3月期には13億7000万円のマイナスに転落している。

まさしく「頭隠して尻隠さず」ならぬ「損益計算書隠してCF計算書隠さず」とは、こうした経営破綻会社の決算書のことをいうのだろう。預金は金融機関から残高証明を取ることで、借入金は借り先への照会で、手元の現金は実際に数えることでチェックができる。結果、キャッシュの流れで誤魔化しはしにくくなる。

「損益計算書と貸借対照表を見ても、CF計算書を見ないという人が多い。これも合わせて財務3表をバランスよく読み解くことがとても重要だ」と前川氏は改めて力説する。