大阪人の「フレンドリーさ」と「情」
当初、お客さんが入るのかどうか心配していたのだが、蓋を開けたら田中さん・前田さんという関西を基盤とする2人の集客力で120人の大入りとなった。田中さんが司会をしたのだが、とにかく面白い。
「えぇ~、このたびハローワーク通いが実を結び、失業保険を月21万7000円もらえることとなりました。雇用保険をこれまで払ってきてよかったです」
こうしたボケを適宜かませつつ、電通と博報堂、そして広告業界について3人でアホ話をし続けた。たとえば、こんなアホな発言が田中さんから出た。
「ある案件で、スピルバーグに仕事してもらいたいな、みたいな流れになったんですわ。『誰か、スピルバーグにツテあるか?』なんて話になったのですが、誰もツテなんて持っていない。そうしたら、なんとスピルバーグの公式HPに電話番号が出ているのですよ。そこで先輩が思い切って、その番号に電話してみた。『ハロー』と言われて、『こりゃ、スピルバーグ本人だ』と先輩は思い、咄嗟に出てきた言葉が『アーユースピルバーグ?』で。そうしたら電話の相手は『イエス、アイアムスティーブン・スピルバーグ』と返してくるじゃないですか!」
「続いて、先輩が言ったのが『アーユーエクスペンシブ?』(Are you expensive=あなたのギャラ高い?)ですわ。するとスピルバーグは明らかにイライラした感じで『Yes, I am very expensive』(オレは相当高いぜ)と言うわけですよ。それで『だったら無理だな、ありがとう、ガハハ』みたいな感じで、先輩は電話を切ったんです」
こうした話をするとドッと笑い声が発生し、皆、実に楽しそうである。2時間のイベントだったのだが、文字どおり「本当にあっという間」だった。私のことを以前から知っていた人はそれほどいなかったと思うのだが、終演後には多くの人が本を購入してくれ、サインを求める列を作ってくれた。そして「面白かったです~」や「役に立ちました!」などと言ってくれた。とにかく皆さん笑顔で、フレンドリーなのだ。
「田中さん、前田さん目当てで来たものの、もう一人の東京者も意外と面白いじゃん(じゃん、とは言わないか? ただ、インチキ関西弁を書く方が恥ずかしいのでこのままで〈笑〉)」ということで、私の本も買ってくれ、積極的に話しかけてくれる。そして「せんせぇ、終わった後の飲み会いかないの?」と打ち上げに誘ってくれる。
スタンダードブックストア前のピザ屋で行われた打ち上げには、30人以上が参加してくれる大盛況ぶりだった。そこにいた人々は初対面同士が多かったのだが、すぐに打ち解け、打ち上げは最終的に3時間半も続いたという(私は1時間半で退席し、新幹線に乗らなくてはいけなかった)。
私の担当である星海社のI編集者はフェイスブックにこう書いていた。
〈打ち上げで、田中さんファンだという妙齢の女性に「おばちゃんなあ、中川さんのことけったいな人やな思ってたねん。ツイッターでもすぐウンコやら死ねやら言うてからに……。でも喋ったらジェントルマンでびっくりしたわあ。担当やったら言うといて。あんなこと言うてたら損やでって」と言われたのが個人的ハイライトでした。〉
こうしてズケズケと感想を述べてくれ、そして面白いものには称賛の拍手をくれる大阪人気質。普段は仕事で訪れることが多く、日帰りですぐに東京に戻ってしまうが、この大阪人の「情」ってヤツには毎度やられてしまう。