851万のトヨタはかつての水準に戻っただけ

では、気になるのは大盤振る舞いのあった2年前(2015年度)の働く社員の懐具合。完成車・部品メーカーを含めた輸送機器関連の平均年収は一体どうだったのか。

まず、業界1位はいすゞ系部品メーカー3社が2013年に経営統合して発足したIJTテクノロジーHDで前年比16万8000円増の941万6000円、2位が自転車や釣り具のアウトドアスポーツ用品のシマノで同9000円減の853万9000円だった。

続いて、3位はトヨタで13万5000円アップの851万8000円。国内完成車メーカーのなかでは文字通りトップだが、リーマン・ショック後の赤字転落で見送られていたベアが14年春闘で5年ぶりに復活し、15年春闘では組合要求の月額6000円に対し、4000円で妥結。一時金も6.8カ月の満額回答だった。ただ、2002年には平均年収が800万円を超えており、リーマン前の07年では830万円弱もあった。この間に平均年齢は3歳近く上昇しており、ようやくかつての給与水準を取り戻したに過ぎないだろう。

完成車メーカーで2番目に高い給料は日産自動車。800万円の大台にわずか5000円足りなかった。もっとも、役員報酬10億円のカルロス・ゴーン社長をはじめ1億円以上の役員が多いなかで、一般社員との給料格差は広がるばかりだ。日産の次はホンダだが、有力部品メーカーのデンソーや豊田自動織機よりも低い770万円強。リーマン前のピーク時は830万円を超えていたから60万円以上も落ち込んだことになる。国内の新車販売は主力車種の「フィット」などの度重なるリコールで苦戦したほか、利益率の低い軽自動車に軸足を置いた影響が大きい。また、出張手当の減額や残業カットなど賃金の実質引き下げに踏み切ったのが裏目に出て、有能な若手社員の流出という悪循環をまねいた。平均年齢も45歳を超えるなど年々上昇傾向で推移しているのも気掛かりだ。

完成車メーカーで総合10位以内にはいすゞ自動車(760万円)と三菱自動車(719万円)がランクイン。このうち、いすゞは90年代に経営危機に見舞われた影響で、平均年収がしばらく500万円台を続けていたが、再建後は給料水準も完全復活を遂げている。

このほか、ヤマハ発動機、アイシン精機、そして独自の環境対応技術「スカイアクティブ」の開発で赤字経営から脱却したマツダ(681万円)が続く。完成車メーカーでブランドイメージと待遇格差が極端に大きいのは富士重工業(4月1日からSUBARUに社名変更)。新車販売の5割以上を占める米国市場が絶好調で過去最高の好決算を更新中で経営側は笑いが止まらないが、社員の平均年収は657万4000円と低水準。トヨタ傘下の日野自動車(650万円)やスズキ(625万円)よりは上位だが、業績がふるわないで希望退職を募ったホンダ系の八千代工業や欠陥エアバッグで大揺れのタカタの後塵を拝しているのは意外である。生産拠点の太田工場(群馬県)に隣接する大泉町はブラジル人などの外国人が多く住む。懐疑的だが「スバルの好業績は人件費の抑制も大きな増益要因」との見方もあるほどだ。

折しも3月1日には企業エントリーが解禁され、今年の就職活動が本格的にスタートした。各社の採用意欲は高く、今年も就職戦線は学生優位の「売り手市場」だ。そんななかで賃金の格差は、同じ業界を志望する学生にとって重要な選択肢の一つなのだが、例えば、提携関係を結ぶことを決めたトヨタとスズキ両社の平均収入を比べると、200万円以上の差があることも見過ごすことができないだろう。