ラッセル会長の予言「ライバルは通信会社」
こうした国際ブランドと日本のクレジットカード会社の関係性は非常に強固で盤石であり、国際ブランドを頂点にしたピラミッド構造(新しい護送船団方式)が永遠につづくだろうと思われていました。しかし冒頭で書いたように、私はこのいわば“VISA一強体制”は決して長くはつづかないだろうと見ていました。なぜならクレジットカード研究を始めた当初に出会ったある人物の言葉が強く印象に残っていたからです。
1993年、私はビジネストリップでアメリカ西海岸(サンマテオ)を訪れ、VISAのラッセル会長(当時)にインタビューする機会を得ました。最初に書いたように、当時はまだ、VISAという会社を世界に広く知らしめようということで、非常にオープンにジャーナリストの取材を受けていたのです。
アメリカに飛ぶ飛行機のなかで私はいろいろと質問を考えていました。こんなチャンスはめったにないのですから興奮していました。そして、ラッセル会長にこんな質問をぶつけました。
「ライバルはマスターカードですか?」
当時のクレジットカードの世界は、VISAブランドとマスターカードブランドがせめぎ合っていたので、当然、ライバル視していると思ったからです。するとラッセル会長はこう答えました。
「イワタさん、それは違います。ライバルはマスターカードではありません。われわれのライバルは通信事業会社であり、コンピュータ関連の企業です」
いまならピンと来る人は多いと思いますが、20年以上も前になる当時、「ライバルは通信会社とコンピュータ企業だ」といわれても、何のことかさっぱりわかりませんでした。
そのころアメリカにスプリントという会社がありました。のちにソフトバンクが買収して日本でも知られるようになる携帯電話会社です。ラッセル会長は「スプリントのような会社が手ごわいライバルになる恐れがある」というのです。なぜそういう会社を警戒するのかというと、その理由はこうです。
「いまのVISAの業態は、金融事業というより、巨大な通信事業者だ。世界中に専用の通信回線を張り巡らせて情報のやり取りをしているのだから。もし、AT&Tなどの通信会社が銀行を買収して決済機能を持てばVISAと同じようなことができるようなる。そして情報のやり取りにはコンピュータが不可欠だ」
つまり、ライバルはいま勢いがあって今後も成長が見込める通信事業会社であり、コンピュータ企業だというのです。それを聞いて私は衝撃を受けました。