応用編:ワルの手口をあえて仕事に生かすなら

ビジネスの世界でよくいわれるのは、新しいアイデアやヒット商品などは必ずしも「新しい発想」から生まれるわけではないということだ。顧客の対象や領域を若干変えることで、「新アイデア」として成立することも少なくない。前述のワルの手口は卑劣極まりないが、あの「メールから電話へ」シフトさせる平行移動の思考によって、成功するケースはあるのだ。

北海道の旭山動物園もその一例かもしれない。

観客に動物を見てもらうという形は変わらないものの、動物本来の動きにフォーカスした展示方法を導入することで、飛躍的に来場者を増やすことができたのはご存知の通りだ。

ユニークな展示法……例えば、頭上をみれば、はるか上の綱をオランウータンが渡っている。ホッキョク熊はガラス越しの私たちを餌と思っているのか、ことあるごとに近づいてくる。あざらしが透明なアクリル管のなかを泳ぎ上っていくたびに、客から「お~」という歓声がわき上がる。

1967年の開園後、一旦は入場者数を増やしたがその後は低迷状態に。旭山動物園は市営ゆえに、かけられる予算には限りがある。そこで考えたのが、動物の行動や表情を間近で見せるという展示方法であった。

一般的に動物園の動物たちは、寝てばかりでまったく動かないこともある。特に気温の高い夏場は、生き物としての躍動感を感じられないことも珍しくない。

それらの“普通”の動物園では、象は象舎で、サルはサル舎で同じ種類の動物を見せ、アフリカ、アジアなどの生息地ごとの檻で展示をしがちだ。が、これはあくまでも「分類の視点」からの見せ方であった。しかし、動物本来の視点にスライド(平行移動)して考えたことで、動物たちにイキイキと行動してもらうには、本来の生息パターンに近づけた“装置”にすることが大事だということに気づいたのだ。

人はイキイキとしたものには心を奪われる。視点のスライドにより、新たなアイデアの窓を開いて、業績アップを促した好例であろう。

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