なぜいま、田中角栄のような政治家は出てこないのか~田原総一朗

田中角栄のすごいところは2つあります。1つは構想力。1967年に社会党と共産党に支持された美濃部亮吉が東京都知事になりました。それと前後して、神奈川、大阪、京都、名古屋が革新になった。それに危機感を持った田中角栄は、「中央公論」に「自民党の反省」という論文を書きました。

解決策として提示したのが、「日本列島改造論」の下敷きになった都市政策大綱です。日本は太平洋側だけ発展して、日本海側や中日本は取り残されていました。そこで田中角栄は日本を1つの都市にしようと構想しました。具体的には全国に高速道路と新幹線を張り巡らし、各都道府県に空港をつくり、日本の4つの島を橋とトンネルで結び、日帰りでどこでもいけるようにする。そうすれば企業も分散するというわけです。

もう1つは、人間としてのキャラクターです。石原さんも言っていましたが、田中角栄は誰でも受け入れるスケールの大きさがありました。たとえそれが敵対する相手でもです。

昔の自民党は、そうした懐の深さがありました。当時、自民党は田中派と大平派がハト派、福田派と中曽根派がタカ派で、どちらかが主流派になれば反対の派閥が非主流派になってバランスがとれていました。党内で活発な議論をしていたから、当時、野党に関心を持っている人はいなかったですよ。

ここにきて角栄ブームが起きているのは、いまの政治に構想力が足りないせいでしょう。アベノミクスは、第1の矢の金融政策と、第2の矢の財政政策が奏功して株価が上がりました。しかし、第3の矢である成長戦略のための構造改革は進んでいない。構造改革は改革したあとの世界をどうするのかという構想が必要なのに、そこを描き切れていません。もしいま田中角栄がいたら、何かしら新しい構想を打ち出して国民に見せていたでしょう。

どうしていま田中角栄のような政治家が出てこないのか。それは政治家が守りに入ったからでしょう。田中角栄は何もない焼け野原から出発しましたが、いまの政治家は守るものがあって、チャレンジしないのです。

その中でも安倍晋三はチャレンジャーだと思います。誰もできなかった改憲をやろうとしているのだから。ただ、彼は昔の日本に戻そうとしているだけで、やはり新しい構想はない。

そういう意味では、小泉純一郎もチャレンジャーでした。あるとき中川秀直と飯を食べていたら、「いま小泉純一郎が総裁選に出ようかと迷っている。どう思うか」と聞かれました。僕は「田中派と喧嘩するつもりがあるなら支持する」と答えました。当時総理だった森喜朗は竹下登が全面的に支持していたし、その前の小渕恵三、橋本龍太郎は完全に田中派でしたからね。そうしたら中川秀直が階下から小泉純一郎を連れてきた。「本気で喧嘩すると暗殺される可能性があるよ」と言ったら、小泉は「殺されてもやる」と言う。それで僕は支持したのです。

彼は言葉の天才で、選挙では田中派を潰すと言わず、「自民党をぶっ壊す」と言った。それで支持を得て、本当に田中派を潰してしまいました。

いま僕はそれを半分失敗だと思っています。というのも、田中派が弱くなり自民党内のハト派が存在感をなくしてしまったから。安倍晋三が改憲を言い出しても党内で反対意見が出てこないのは、いいことではない。この状況への危機感と、昨今の角栄ブームは無関係ではないでしょう。

自民党は、新しい構想を持ったポスト安倍をそろそろつくるべきです。ただ、いまは見当たらないから困る。小泉進次郎はセンスがあるけど、世代交代にはまだ時間がかかります。そのあたりが自民党の、そして日本の政治の課題でしょう。

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、ABEJA社長・岡田陽介氏インタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、8月8日発売の『PRESIDENT8.29号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影 AFLO=写真)
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