求められるのは「T字型の能力」
では、ここで言う「即戦力」とは今、どのような人材を意味するのだろうか。
前出のギブソン社長は「効率化によるコスト削減の必要から、サプライチェーンの知識、経験を持つ人たちの需要が高い」と話す。
また、村井社長からは「T字型の能力を持つ人」という指摘があった。営業でも経理でもエンジニアでも、「この分野に関しては自分が中心となった案件がある」など、一つの能力が訓練されていること、そしてその専門的なスキルに重ねて、「縁側やのりしろを持っている人」が評価され始めているという。
「この不況で企業は、これまでの業務をより少ない人数でこなさざるをえません。そこで、あらゆる仕事に目配りができる人が求められる。まだ感覚的な話ではありますが、大手の求人にマッチする人材として、中小企業の総務部で人事、経理、購買などマルチな仕事を一人でこなしてきた、30代くらいの方が挙げられる傾向が生まれつつあるように思います」
この言葉を補足すると、現在、相対的に最も価値が高まっている層は、「新卒で企業に入社した、30~35歳くらいの“ロストジェネレーション”と呼ばれる世代」だとギブソン社長は話す。
「どの企業もこの世代の人材が年齢ピラミッドの中で少なくなっており、彼らをとり合っている。この世代のある種の人たちにとっては、景気悪化はまったく影響がない。これは日本独自の現象です」
彼の指摘を前提に置けば、ここ数年間の人材ビジネスの好況も、そして現在の落ち込みの背景も、「100年に一度の経済危機」のみに収斂するわけではないことが浮かび上がる。
例えばリクルートエージェントの売上高推移を見ると、03年から07年までの4年間で、業績を約3倍に伸ばしている。昨年9月以降の急激な需要の落ち込みを経験している今、村井社長はこの推移を示したグラフを見つめつつ、そもそも人材紹介ビジネスの「成長の秘訣は1993年からの(就職氷河期といわれる)10年間にあった」と語った。
「実力があるにもかかわらず、望まない就職しかできなかった若者が溢れていた。望まない環境に耐えていた人たちの“リベンジ転職”を、この数年で我々が一気に行ってきた面も大きかったわけです」
今回の不況は、雇用の調整が一段落したところへ重ねてやってきたものだったわけだ。そして好況の流れがたち切られた今後、人材紹介という分野から見る企業の中途採用活動は、どのような事態を迎えていくと予想されるのだろうか。
「企業は再び人材を自社で抱えることに躊躇すると思いますので、プロフェッショナルな人材と契約を結んで業務を遂行する傾向が強まるのではないか」
こう語る一方で、ギブソン社長が吐露した次のような懸念が印象的だった。
「苦境に直面したとき、日本企業は人材ピラミッドの上と下を切る。それが今後、新たなロストジェネレーションをつくる動きになってしまうのだとしたら、企業の健全性に照らし合わせても、持続可能な構造ではないと思うのですが……」