川村さんの夫のように、高収入でも危機感を持つ男性は少なくない。とはいえ、外資系金融機関ともなれば年収数千万も珍しくない。それでも夫の強い危機意識から妻の戦力化に踏み切った家庭がある。

外資系金融機関を何社も渡り歩いている吉原郁夫さん(仮名・46歳)は、結婚13年目。妻(36歳)と2人の子供がいる。老後資金10万円と教育資金10万円(2人分)を毎月貯蓄している。5000万円以上で購入した一戸建てのローンは、月に32万円も返済。2000万円近い年俸をもらっているからこそできるワザだ。4年前の転職では収入が減少。高収入でも不安定な職。危機感を募らせた吉原さんは、妻にパートに出てくれと頼み込んだ。吉原さんにとって至上命令である毎月20万円の貯蓄が難しくなったからだ。「朝、会社で『もう来なくていい』と通告される同僚を何人も目の当たりにしてきた」だけに恐怖心も人一倍なのだ。

妻はしぶしぶ介護のパートを選択。「資格取得講習会に8万円。移動用の電動アシスト自転車にも数万円。時給は800円で月に1万~2万円の収入。本当に回収できるのか疑問でした」。

結局、1年ほどで妻の仕事はなくなった。ちょうど吉原さん自身は別の外資系証券会社への転職に成功し、多いときには特別ボーナス込みで年収4000万円近くに達した年も。もっとも「早朝から深夜まで馬車馬のように働く」極度のストレスで、月20万円の“小遣い”も酒や遊びであっという間に消えていった。

ところが金融危機で年収は1500万円ほどに急落。これまで貯めてきた老後資金や教育資金の半分は投資信託にしていたため、6分の1ほどに目減りしてしまった。今後、会社に残留できるかどうかわからない。恐れていた危機がやってきたのだ。吉原さんが子供の私立中学進学断念を口にすると、私立派の妻が図書館のパートを始めた。週2、3日で月3万~5万円になる。

最近、老後資金の貯蓄の半分は妻の稼ぎでまかなわれていると考えるようになった。「先日、『本当に助かってるよ、ありがとう』と妻に言ったら、とても喜んでいました。土日の朝はそっと寝かせてあげるようになりました」。

(早川智哉=撮影(手帳)、的野弘路=撮影(人物))
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