「広島サミット」を望まなかった理由

ここで大きな働きをしたのが、地元メディアである広島テレビだ。

平和記念公園には、世界中から年間1000万羽を超える折鶴が寄せられている。広島テレビは、その折鶴を溶かし、再生した紙に、平和を願う気持ちを込めた「一文字」を書いてもらう「Piece for Peace HIROSHIMA」運動を2012年からおこなっていた。

しかし、反響の大きさから、2014年からは、それを発展させて、今度は平和への思いを「オバマへの手紙」として書いてもらうキャンペーンをつづけていた(※2)

広島県知事、広島市長、被爆者、主婦、子どもたちなど幅広い層からのオバマへの手紙が集まっていく。

今回、オバマ氏と対面した被爆者、坪井直さんの〈あなたには、人類を救う力がある。来訪を切望しています〉というものも含め、そこには、アメリカに対して「謝罪」を求めたり、「恨み」がつづられたものは一通もなかった。被爆者たちの手紙は、ほとんどが「とにかく広島を見てください。そして核廃絶への一歩を共に踏み出しましょう」というものだったのである。

広島テレビ社長の三山(みやま)秀昭氏(69)が、この「オバマへの手紙」と、森重昭さんが発掘した米兵12名に関する英訳記事を携えてホワイトハウスを訪ねたのは、2014年5月のことである。

「広島市民は心から大統領の広島訪問を待っています。謝罪ではなく、広島の地から、核廃絶への祈りを発して欲しいのです」

三山氏は、そのことをホワイトハウスに直接、伝えたのである。読売新聞記者として、ワシントン特派員や政治部長を経験している三山氏は、アメリカの政権中枢に対して直接のルートがあったのである。

「米兵を含む全犠牲者への追悼を」
「広島市民は謝罪を求めていない」

この2つの事実を知ったオバマ氏とその周辺が「広島訪問」をはっきり“意識”し始めるのは、これ以降のことである。