退路を断つことで緊張感を高める

一方で、料理のクオリティーを上げるための段取りは、ギリギリの仕入れにある。6皿の魚料理をつくる場合、仕入れる魚はその6皿分だけ。余裕を持たせない。

理由は第一に、その素材が最もおいしいタイミングで使うため。余ったものは翌日でも使えるが、ピークは過ぎている。それを出すことはしたくない。また、余裕を持たせなければコストが削減でき、その分を仕入れ費に上乗せすればよりよい食材を買うこともできる。

さらに、必要な分しかないとなれば、当然、失敗は許されない。スタッフは緊張感を持って調理にあたることになり、おのずと集中力が上がり、料理のクオリティーも上がる。

企業においてもこの方法は有効だろう。たとえば、プレゼンの資料を部下につくらせる場合、期限を前倒しするなどして緊張感を与えれば、最初から精度の高いものが出来上がる確率は高くなる。誤字の修正などに費やすタイムロスもなくなるわけだ。「レストランはチームプレーなので、個々の力を伸ばすことが全体のレベルアップにつながる」

と岸田さんは言う。そのために言葉で伝えるだけでなく、自分自身が模範を示すことが大切だと考えて行動している。そんな日々の積み重ねが、ミシュラン3つ星の高評価を生み出すのだろう。

▼3つ星シェフのマルチタスク仕事術

[1]過去の情報はすべてPCで管理
来店履歴はすべてPCへ。何を食べたのか記録し、1度食べた料理は2度出さないようにするためだ。その段取りのための情報管理は欠かさない。

[2]全員で情報を共有
ランチ前、ディナー前の賄いに合わせて全員でミーティング。それぞれがお客様の情報を共有することで、同時進行で完璧なサービスができる。

[3]過去の名著をひく
2カ月に1度リピーターが訪れる。それに対応してメニューを入れ替え。常に最高の料理を生み出すため、古典の料理本を開き、発想を新たにする。

[4]あえて余裕を持たない
素材の発注は前日にぴったり人数分。調理に失敗しても、替えはない。退路を断つことでクオリティーが上がり、食材と時間のロスも少なくなる。

カンテサンス オーナーシェフ 岸田周三
1974年、愛知県生まれ。志摩観光ホテル「ラ・メール」でキャリアをスタート。その後、フランス各地の星付きレストランで研鑽を積み、2006年同店のシェフに就任、11年よりオーナーシェフとなる。ミシュランガイド東京スタート時より8年連続3つ星獲得中。
(的野弘路、貝塚純一、太地悠平=撮影)
関連記事
未来の成長のために「捨てた」4つのこと
あなたの生産性がわかる「グズ検定試験」
着手が早い人と遅い人。脳はどう違うか?
作業効率化のカギは「忘れるためにメモ」「何度も“壁”を設ける」
今この瞬間、「1つの仕事」に集中できないのは誰のせいか