▼10年2、3月と稲盛イズムが次第に吹き込まれていったが、稲盛は連日のように叱った。特筆すべきは4月、経営会議で役員へ講話したときだ。この日、稲盛は役員にこう言い放った。
「どうなっているんだ、この会社は。今日、議論などしなくていい。私が喋っても無意味だ。JALは倒産した。そこを真摯に考えるべきだ。危機感を持たないとどうにもならない」
1時間以上、懇々と役員を諭した。
【常務(1)】破綻した事実を受け止め、その原因を自分たちで究明して、それを繰り返さないようにするにはどうしたらいいか、ということを稲盛さんは徹底的に問いかけたんですね。
【専務(京セラ)】リーダーが変わらないと組織は変わらないという考えでした。
【常務(1)】下からではなくて上から企業のDNAを変えていくということ。子が親を見て育つようにリーダーが正しい考え方を身につけて、それを配下の人に広めていく。そうやって組織は一体となって動いていくという。
▼JAL社員は破綻前から「意識を変えなければいけない」と気づいていたが、どうすれば変えられるかがわからなかった。巨大な組織のどこかが蝕まれているのに対処できない。社員はそんな閉塞感に包まれていた。稲盛はそんな現状を打破する救世主だったのか。
【広報】稲盛さんが直接社員に声をかける場面はその後も続きました。5月には部長クラスなどの管理職宛てに手紙で、「あなたたちがジタバタしちゃ駄目だ」とメッセージを送り、7月には運航乗務員に「パイロットは安全運航が大事だけれど、我々はお客さま商売だから、究極のサービス業と認識して機内アナウンスしなさい」とアドバイスしています。CA(キャビンアテンダント)には「もっと心のこもったサービスを」と求めたこともありましたね。