「遅い」は「早い」相互理解の近道とは

非常に時間のかかるプロセスだと思うかもしれませんが、コミュニケーションにおける原則は、「遅いは早い、早いは遅い」です。これは、「急がば回れ」ということわざとほぼ同じ意味です。

これをビジネスに置き換えて考えてみましょう。お互いに理解し合わないまま「指示されたから」というだけで企画を練ると、ダメ出しに次ぐダメ出し。それでも相手の要求を理解できていないから、また期待を裏切るものを提出してしまう……という悪循環に陥ることがあります。これでは、時間もコストも無駄でしかありません。面倒に思えても、最初に「聴く」ステップを踏み、異なる意見をきちんと自分のなかで消化するプロセスが、「第3の案」を生み出す一番の近道なのです。

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相手の「パラダイム」を理解するための「聴く」テクニック

コヴィー博士は、「第3の案」の存在を約束しています。どんな極端なA案とどんな極端なB案にも、「第3の案」は必ず存在するのです。そのためにもっとも重要なのは、テクニックでもスキルでもありません。自分の案でも相手の案でもない、今はまだ目に見えない、まったく新しいものを導き出していこうという意思です。「Win-Win」の態度を持って、お互いにまったく違う視点から物事を見ること。そして、「◯◯でなければいけない」という固定観念や思い込み、偏見、つまらないプライドの箱から飛び出て一緒に考えること。すると、「そんなアイデアもあるかもしれない」「こういうこともできるかもしれない」というように、新しいアイデアを生み出すことができる可能性が高まります。

さらに、「第3の案」を見いだすプロセスには、もうひとつ大きなメリットがあります。まず、新しい視点から物事を見ることができます。それだけでなく、はじめは異なる意見を出し合っていた二者が理解を深めることで、お互いの関係にもよい変化が生じます。よりよい人間関係を築くことにつながるのです。新しいものを創造するというワクワク感を共有したことで、新たなエネルギーも生まれるでしょう。これこそが、「運をつかむ」状態を自らつくり出す思考法なのです。

スティーブン・リチャーズ・コヴィー博士
世界38カ国に拠点を持つフランクリン・コヴィー・グループの創設者。1952年ユタ大学卒業。57年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA 取得。76年ブリガムヤング大学にて博士号取得。『7つの習慣 成功には原則があった!』は世界で3000万部以上を記録。25年間にわたりリーダーシップの原則とマネジメント・スキルについて、ビジネス、政府、教育の現場を通して指導した。近著『第3の案』もベストセラーに。2012年に79歳で死去。
(猪口 真=構成 Getty Images=写真)
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