私は、大学の授業で、ときどき「口から出まかせ」の演習をすることがある。お互いに「お題」を出し合って、関連する自分の人生に関する「嘘」を即興で話させるのだ。
ある学生は、「ペットボトル」というお題をもらって、即座にこう話し始めた。「ぼくには1人、妹がいまして」。どうなるのかと聞いていると、彼は続けた。「彼女、ペットボトルが嫌いなんです」。
その理由は、不気味に光っているからだという。みんなが爆笑する中、妹がコンビニで可能な限りペットボトルを見ないようにして、缶入りの飲料ばかり買っていたという話を展開し、拍手のうちに語り終えた。
席に戻った彼に、「妹、いるのか?」と聞くと、「いません」との返事。「じゃあ、ペットボトルの件は……」「口から出まかせです」。
特に話がうまいわけでもない。普段から文章を書いているわけでもない。そんな学生でも、いきなり「無茶ぶり」されると、「口から出まかせ」ができる。
そして、面白いことに、「口から出まかせ」の表現でも、その人らしさは必ず出る。
脳は、「口から出まかせ」でいいと抑制を外したときに、奥底にある秘密を明かしてくれる。だからこそ、「口から出まかせ」は表現の有効な手段なのだ。