これからの国の骨格をきちんとつくる

【塩田】安倍首相は宿願の集団的自衛権の行使容認に関する安保法案を成立させました。

【菅】国民のみなさんの生命と平和な暮らしを守るのは政府の役割ですが、今の日本ではなかなか難しい。民主党政権のときもいろいろな問題が起こっています。冷戦構造が終わり、世界の安全保障の環境はがらっと変わりました。現在は一国で国の平和と安全を守れる国はほぼなくなっています。そういう中で、日米同盟を強化させ、あるいは世界の他の国としっかり連携して、抑止力を高めて戦争の危険を少なくすることが極めて重要です。

【塩田】安倍首相は集団的自衛権の閣議決定の後、解散・総選挙を行い、その後、今年の通常国会で安保法案に挑みました。なぜ2014~15年にこのテーマに取り組んだのですか。

【菅】本当の大仕事です。今でなければできなかったでしょう。総理は、やらなければ駄目だ、この法律はつくっておかなければという使命感がものすごく強かった。今度の政権は、長期スパンに立っていつ何をやるかと考えてやっていますが、そういう意味で、昨年暮れの衆議院の解散・総選挙は、本当にあのときにやっておいてよかった。

たとえば、選挙が近くなると、自民党内から崩れてきます。それが今までの歴史です。今回は国民世論が割れて、世論調査では反対のほうが多かった。政権の力、勢いがものすごく殺がれる。あの総選挙は、消費税増税延期の問題など、国会運営全体を考えた上で行ったけど、時期としては、あそこで選挙をやって国民の理解をいただいて、政権が力を得た。そういう政権でないと、体力を消耗しますから、なかなか難しい。

【塩田】安倍内閣は昨年9月に内閣改造と2020年東京オリンピックの招致決定、その後の消費税率再引き上げ実施の判断というスケジュールの中で、解散・総選挙を決めました。首相と官房長官はいつ頃から想定していたのですか。

【菅】秋の臨時国会の日程を決めたときから考えていました。臨時国会の会期を11月いっぱいまでにして、日を残したんです。そのときは総選挙をやるとは決めていませんでしたが、やれる状況にした。具体的に解散を決めたのは10月です。

【塩田】官房長官として、安保国会で一番、苦労したのはどんな点でしたか。

【菅】自民党推薦の憲法学者の人が違憲だと言った。あれで雰囲気ががらっと変わりました。憲法学者の人にはそういう意見が多いけど、私は「そうでない人も多い」と言って、怒られました。10人は知っていたけど、3人の名前を挙げたら、「3人しかいないのか」と言われた。ただ、歴史を見ると、自衛隊発足当時も、憲法学者はほぼ違憲と言っています。朝日新聞の調査でも、8割の人が違憲と答えていた。だけど、今は国民の8~9割の人が自衛隊は必要だと思っています。ですから、安全保障は本当に難しい。冷戦後、これだけ国際環境が変わっても、どの政権もできなかった。そういう意味で、戦後最長の95日間の通常国会延長を行って法案を仕上げることができて、すごくホッとしています。

【塩田】安倍首相は安保法案を仕上げ後、脱力感と挑戦意欲の衰えが感じられると言う人もいます。大仕事を終えて、燃え尽き症候群に陥っているということはありませんか。

【菅】私も安倍政権をつくったとき、これを絶対にやろうと思っていました。国民から理解されず、支持率が下がるかもしれないと覚悟して取り組んできましたから、終わった瞬間、がくっときました。放心状態というか、力が抜けた感じでした。ですが、総理も「新・3本の矢」を打ち出して、これから国の骨格をきちんとつくろうと思っています。