なぜ、超エリート社員はしくじったのか?
では、エリートコースに乗っていたA氏はなぜ失脚したのか。人事担当者は「再チャレンジに失敗した」のが原因と語る。
「半導体不況の時期に予算未達の状況が続きました。彼も課長として精一杯頑張ったのですが、売上げの達成は難しかった。そんなときに彼に子会社の部長職への辞令が下りたのです。じつは上層部としてはエリートの彼をこれ以上傷つけないために子会社に出向させたのです。彼の実力なら子会社の幹部職として活躍するだろうとの期待もあったようです。
ところが彼はそう受け取らなかった。役員の指名で本人に出向を命じたとき『えっ、何で俺が』と、飛ばされたと思ったようです。それでも奮起して努力すればよいのですが、出向先での彼は社員とコミュニケーションをあまり取ろうとはせず、ほとんど部下任せでやっていたらしい。結局、そのまま失速してしまい、本社に戻ってきたときには同期に先を越されていました」
子会社に出向させられると、飛ばされたと勘違いする人が多い。
A氏もその1人だった。だが、仮に飛ばされたとしても実績を上げて本社に返り咲く人もいる。ところが、片道切符ではなかったA氏は出向をきっかけに仕事への意欲を失い、出世街道から外れるどころか、リストラ対象者になってしまった。若いときから先頭を走る人ほど自信に溢れ、プライドも人一倍高いものの、1度失敗すると崩れてしまうと言われるが、A氏のその部類だったのだろう。言ってみれば、まだ踏みとどまれるのに、自ら崖から転げ落ちてしまったようなものだ。
▼突然、追放される人々の仕事ぶり
そういう人はA氏に限らない。次のケースは、ちょっと調子に乗っていたのがアダとなった形だ。
部長に就任したとたんに上の指示に唯々諾々と従い、自分で検証することなく部下に丸投げする人も少なくない。IT関連企業の人事部長はこう説明する。
「役員とのつきあいを大事にし、土日はゴルフばかりして、それだけで管理職になったような人がいます。職場でも遊びの話が大好きで、そのくせ丸投げされた部下が文句を言ってくると『部長がそう言っているんだからそうしろ』と命令するだけです。自分で具体的プランを考えることもなければ、かみ砕いて部下に説明することもしない手抜き上司」
それでも昔はそんな上司は大勢いた。
しかし、今はそんな上司は追放される運命にある。きっと、人あたりもよく上司にかわいがられるタイプだったから引き上げられたのだろうが、そんな夢の時間はずっとは続かない。こうした管理職を何人も降格させてきた機械メーカーの人事部長は、丸投げ上司は会社のガンとまで言い切る。
「部長のビジネスの方針を踏まえて自分なりの考えをまとめ、付加価値をつけて部下を動かす能力のない課長は失格です。部長が言うのは大体の構想であって、それを具体化したプランにするのが課長の役割。プランを提案することもしないで下に回したら、良い結果になるはずがありません。こういう上司を課長の椅子に座らせておくほどの余裕はまったくありません」
当然、余計な仕事を振られた部下の負担になり、上司に対して快く思わない。仮に本人にスキルがないのであれば、部下に頭を下げて教えてもらうか、あるいは自分なりに努力して勉強する意欲を持ち合われていなければ追い落とされる時代なのだ。