制度充実の弊害は女性の昇進への意欲ダウン

安倍政権のウーマノミクスでは、潜在的な女性労働力の活用とともに、女性管理職の増加も目的としている。しかし、オランダでは管理職に就いている女性の割合が比較的少ない。それは短時間正社員制度の弊害なのだろうか。

その答えを知るためには、短時間正社員(主に女性)のメンタリティを知る必要があるだろう。彼女たちの多くは大学卒に当たる学歴を持っており、管理職に就けるだけの能力は備えている。また、出世への道が差別的な法律や慣習で閉ざされているわけでもない。

しかし、彼女たちはフルタイム正社員として昇進と収入増を図るよりも、自分の望むワーク・ライフ・バランスを保ちながら生活できる短時間正社員の境遇をむしろ理想としている。EU統計局によると、オランダで現在よりも就業時間を増加させたいと希望している短時間労働者の割合は3.3%(13年)で、欧州諸国中最低だ。

つまり、オランダのほとんどの労働者は、より高い職位に就くためにプライベートの時間を犠牲にすることに否定的なのだ。インタビューした1人の女性は真剣な顔でこうも言っている。「今はもうワークシェアリングが普通。むしろ、子どもがいるのに夫婦揃ってフルタイムだと『家庭に問題があるのでは?』と色眼鏡で見てしまうぐらいです」。

経済面から見れば必ずしもベストとは言えないオランダの短時間正社員制度。しかし、この国の人々はワークシェアリングのデメリットを、考え方を転換することでメリットに変えようとする、非常に強い意志を持っていることがわかった。そして、労働者・経営者双方の利益が合致するよう、積極的に変化を受け入れる姿勢を持つことで、30年かけてそれを達成している。

日本でも短時間正社員制度を取り入れる企業は増えてきている。だが、いくら制度だけ導入しても、それが日本人のメンタリティにマッチしていなければ機能しない。日本企業は、将来像を見据えて価値観を見直す必要があるだろう。

(西堀綾子=撮影)
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