才能を伸ばすなら選択肢をオープンに

私が調査してきたスポーツ科学と遺伝子の関係からわかったことは、子どもの成功は長期的な視点で見なければならないということである。早期に訓練を受けた子ども、特に女の子は、ほとんどが16歳になるまでにその分野から離れてしまっているというデータもある。

「将来一流になるのなら、早くに芽が出るはず」、という思いは捨てるべきだ。自分の子どもが優れていることが早くに明確にならないことは、親からすれば不安かもしれない。しかし、子ども自身は親が与えた道にのっているにすぎず、これから広がる可能性のある道を親が狭めてはいけないのだ。

子どもを伸ばすもうひとつのキーワードは“暗黙的学習”だ。これは言語を学ぶときに文法などの説明を受けて学んでいく“明示的学習”に対して、周囲の人が話す言葉などをシャワーのように浴びる中で習得するという方法を指す。子どもは文法を教えられなくても、周囲の人の言葉を聞いて育つ中で、その言語を習得し話し始める。文法などを教えて正しく使えるように修正していくのは、話せるようになったずっと後からでかまわないのだ。

これをスポーツに適用すると、子どもに対して最初から絞ったことを教えるよりも、多様なスポーツに挑戦させ、専門的で技術的なことをあとから教えるということだ。しかし、実際には先に技術を教えてしまうことが多い。その結果、子どものポテンシャルを破壊してしまう結果になってしまうのである。

将来の“一流”を育てるには幼いときの広い選択肢が必要である。これまで信じられていた天才の育て方と反対であっても、耳を傾けてもらえたらうれしい。

スポーツ科学ジャーナリスト
David Epstein
(デイヴィッド・エプスタイン)
米国出身。 コロンビア大学大学院修士課程修了(環境科学、ジャーナリズム専攻)。「スポーツ・イラストレイテッド」誌のシニア・ライター。同誌でスポーツ科学、医学、オリンピック競技の調査報道を担当し、記事での受賞歴も多数。学生時代は、中距離走の大学代表選手として活躍。著作『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』(早川書房)。
(大野和基=構成、撮影)
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