3.自ら体現者になりきって語る
今回のインタビューで一番印象的だったのは、「小倉さんならどう考えるだろうか」というフレーズだ。小倉イズムについて話す木川氏は、何度かこのフレーズを口にした。必ずしも小倉昌男氏の薫陶を直接受けたわけではないにも関わらず、「小倉さんならどう考えるだろうか」を想像できるところに、時代を超えて理念が伝承されていく鍵があるように思う。
つまり先人の考え方を今の自分のおかれた状況に当てはめ、解釈し、自ら語る。あたかも小倉昌男氏が木川氏に乗り移ったかのように。木川氏のみならず、全社的に「満足創造研修」のような場で自ら理念の体現者として語る機会が設けられていることが、小倉イズムを我が事として話すことのできる語り部を組織全体に増やすことにもつながっている。
木川氏が常に「小倉さんならどう考えるだろうか」と自問していた、という話で思い出したのは、松下電器の改革を断行した中村邦夫氏のエピソードだ。事業部制をはじめ創業者の築いたものをことごとく壊したとされる中村氏が、その判断にあたって「幸之助さんはどう考えるだろうか」と想像の中で対話していたという。
そして数多くの幸之助語録の中でも「日に新た」という言葉を重視したのだと。時代に合わせ変えていくことを、過去を否定することではなく創業者も望むことと考えられる解釈力こそが、理念を受け継いでいくリーダーに求められるのだろう。