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自分と組織のビジョンの接点を探す

「そんな例は特殊で、起業のネタなんてそうそう見つからない」と思われるかもしれない。そういう人にぜひやっていただきたい。3つの円を描いてみるのだ。

最初の円には自分が社内でやらなければならないMUST項目を、2つ目の円には自分がいまの役割を超えてもっとやれることを書く。最後の円には、制約ゼロという前提で、自分がいまの会社の社長だったらやりたいこと、あるいは外部コンサルタントの視点で「こうしたい」と思うことを書く。この3つの円に入る項目が重なっていれば、それは個人のビジョンと組織のビジョンが重なっているということ。その項目を事業のネタにしてみたらどうだろう。会社のためになるものなら、上司も認めてくれる可能性が高い。

ネタが見つかってからが茨の道だ。最大の壁は周囲の理解である。斎藤さんは関係者のインセンティブは何かを常に意識し、それを叶えるようにしていたという。危ないことはしたくないが、数字は欲しい。それが上司というものだ。そこで業績は上司の手柄に、失敗は自分が引き受ける覚悟が必要となる。部下にもインセンティブを与える。斎藤さんは立ち上げで力になってくれた部下をきっちり評価した。

事業のネタ自体がよくても、うまくいかないかもしれない。その場合、外の力が有効になる。モーニングピッチも最初は知名度がゼロだった。そこで斎藤さんらはマスコミの力を利用した。それも海外マスコミに売り込んだ。そのニュースを知った国内マスコミが飛びつき、それを目にした会社の上層部が事業の意義を認識した。

そこまでやらなければならないのかと思うかもしれないが、それは贅沢だ。独立して起業したら、毎月決まった給料など入ってこない。銀行融資もハードルが高い。それに比べて社内起業はいかに恵まれていることか。

会社が親、社員が子であっても、親が一方的に子の面倒を見る時代は終わった。たいして成果を挙げられない、脛かじりの息子を会社は雇い続けるわけにはいかない。でも孝行息子はいつまでも手元に置きたがるだろう。

小杉 俊哉(こすぎ・としや)
MITスローン経営大学院修了。
NEC、マッキンゼー、アップル等を経て、THS経営組織研究所代表。著書に『起業家のように企業で働く』。
(THS経営組織研究所代表 小杉 俊哉 構成=荻野進介 撮影=向井 渉)
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