また、がん治療といえば抗がん剤を思い浮かべるが、抗がん剤は毒性が強い。抗がん剤が「効く」というのは、単に「がんのシコリを一時的に小さくする」という意味だ。そのシコリはまた大きくなる。つまり「効く」というのは、治すとか延命につながるという話ではない。1990年にアメリカ議会に提出された技術評価報告書ですでに「抗がん剤、放射線などは病巣を一時的に縮小させるが、この縮小は無意味であり、延命効果が認められないうえに、患者の生活の質を悪化させる」と断定されているほどだ。
白い線(図を参照)は、約100年前、手術も抗がん剤もなかった時代の、乳がんの患者さんの生存曲線だ(Br.Med.j 1962;2<5299>:213)。黒い線はアメリカの世界的に有名ながん専門病院で抗がん剤治療を受けた患者群である(J.Clin.Oncol 1996;14:2197)。これは、複数の抗がん剤を試した場合の生存曲線だ。
そして赤い線は、乳がんの治療によく使われる抗がん剤、ドセタキセルの治療成績で(J.Clin.Oncol 2002;20: 2812)、ある抗がん剤で乳がんの転移が小さくならなかったり、一度小さくなってもリバウンドした場合に、医者が「薬を変えてみよう」と提案してドセタキセルで治療した場合だ。結果は、生存期間中央値が、1年にも満たないものになっている。途中で線が切れているのは、患者さんの多くが亡くなったので調査が打ち切られたからである。
この3つの生存曲線を比べると、抗がん剤がいかに効かないか、よくわかるのではないか。イタリアの研究者が、95~00年に欧州で承認された抗がん剤12種類の治療効果を追跡したら「今までの治療法に比べて、患者の生存率などに違いはなかった」という報告もある。効かないだけならまだいいが、日本人の9割を占める胃がん、肺がん、大腸がん、乳がんなど固まりをつくる「固形がん」には、抗がん剤は強い毒性によるつらい副作用と「縮命」の効果しか及ぼさない。
ただし、急性白血病や悪性リンパ腫のような血液系のがん、そして固形がんでも小児がん、子宮絨毛がん、睾丸腫瘍などは、抗がん剤で治る可能性があることは事実である。