もう一つのプロジェクトは、社長直属の商品開発チームの新設。飲料の世界は、長らく男性客に照準を合わせてきたが、「転換期にきた」と感じていた。健康志向の強まりや新分野の飲料の続出で、既存製品の市場は縮小へ向かう気配があった。一方で、販路の中軸は、街の酒屋からスーパーやドラッグストアへと移っていく。「そうなると、誰が飲料を買う主体になるか」。答えは簡単だ。そういうチェーン店を訪れる多数派、つまり女性たちに主役が代わる。
久し振りにシュンペーターの著書を開くと、「改革で重要なのは組み合わせ」とあった。直属チームにも、多様な知見やセンスの組み合わせが必要だ、と確認する。研究開発、マーケティング、営業やボトラー社など、いろいろな分野から約20人集めた。そして、「開発では、既存の自社製品と競合しても構わない。摩擦は、私が解消する」と言い渡す。
ここから、女性たちに支持された「からだ巡茶」が出る。栄養分をただ飲むのではなく、体内における作用で「きれいな体」になる道を目指す。パッケージでも、既成概念を超えた。飲料でも化粧品でも、消費者が最初にみて触るのは、中身ではなくパッケージだ。そこに、力がなくてはいけない。消費者の強い要望を映した「薄い樹脂で、お年寄りでも女性でもつぶしやすい」という「い・ろ・は・す」の容器が生まれた。
事業部や社内カンパニーに、分野ごとに人繰りや予算の使途を任せ、商品開発から収益の確保まで責任を持たせる手法は、目先の数値目標を達成するには早い道だろう。ただ、閉鎖的になり、小さな成功体験にとらわれて、中長期的に目指すべき山の頂がみえにくくなりがちだ。そうした頂に、正面から挑んでいく愚直さも、組織の中にはなくてはならない。
縦割り組織の弱点を打破した直属チームは、「こころざし読本」が呼びかけた自由な創造力の手本を示し、全社を活性化させた。