未達社員を配属させなかった理由

【三宅】他の企業にも参考になりそうですね。11年の新入社員たちには、「入社までにTOEIC650点を取りなさい」と指示があったと聞きます。でも、実際にその点数を取って、全員が入社したわけではないですよね。

【葛城】そうです。

【三宅】ここが非常にユニークなのですが、入社後にもTOEIC650点を達成するまで仕事はしなくてもいいから英語の勉強をしなさい、と。650点を取った人から配属されたと聞きました。

【葛城】その通りです。

【三宅】給料をもらいながら英語の勉強をできる、と捉えることができればいいですが、実際にその社員にとっては相当なプレッシャーになったのではないでしょうか。「同僚は皆、仕事をしているのに」と。

【葛城】実は、新入社員458人のうち、650点を取得できていない新入社員が170人いました。「研修を頑張ったのですが、どうしても目標点数に未達です。5月1日の配属後にしっかり英語を勉強させます」と、4月末に三木谷に報告したところ、「配属させない」との返答がありました。そのとき、「英語公用語化」に対する三木谷の本気度が改めてわかりました。また、楽天は社員一丸となって目標を必達するというカルチャーがあるのですが、「その一番大事なところを体感させないでどうするんだ」とも言われたのです。目標未達のまま途中で諦めるのは「彼らの人生にもよくない」と言うわけです。その170人は配属先が未定のまま、5月から英語勉強の毎日でした。

【三宅】サポートもいろいろとされたようですね。

【葛城】本当にいろいろなことをやりましたね。やっぱり、英語が苦手な人というのは、まず語彙が少ない。そこで、まずは単語テストを行ないました。100問のうち8割を正答すれば次の100問を解いてもらう。1000問の単語テストに合格できたら、TOEICを受けられるという流れにしました。また、単語の次に重要なのは、コミュニケーションを支える文法です。それも中学レベルの文法なのです。英語が苦手な人は中学生のときに英語嫌いになってしまっていることが多い。だから、中学校の教科書や参考書を使って学習してもらうようにしました。英語が少し得意な人たちには英語で英語を教え、英語が不得手な人たちには日本語で英語を教えるようにしました。また、一部の社員へは、一時フィリピンへの留学を行なったりもしました。

【三宅】単語力と文法力は本当に重要です。単語や文法に注力するから、日本人は英語を話せないと言われるが、そんなことはない。単語力や文法力のある人は、練習することで英会話はすぐにできるようになります。日本の英語教育は、従来、単語や文法を偏重して教えてきたことが問題なのであって、基礎力は非常に重要です。

【葛城】その通りだと思います。

三宅義和・イーオン社長とゆかいな仲間たち【第1回 楽天:後編】につづく

(構成=金澤匠 撮影=澁谷高晴)
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