ビジネスにおける正解は一つではないのだから、納得できるまで議論した後、Bを採用することになってもかまわないのだ。ここで重要なのは、最初に提案したAに至るまでの思考プロセスが論理的なものであればあるほど、なぜBを取ったかが顧客にも自分自身にもはっきりわかり、説得力や実行能力が高まるという点である。
そのためには、資料収集やデータを把握するだけでなく、最初にしっかりヒアリングをしておくことだ。特に新規クライアントの場合は、相手が本心で何を望んでいるか、業界や会社の体質はどんなものなのかを聞き取り、本質的な部分を感じ取る力が最重要になってくる。それによって、最初に仮説を見せたほうがいいのか、データから入るのがよいのか、結論は同じでも提案プロセスが大きく変わってくるのだ。
ここまでの提案を成し遂げるには、あくまで外部の人間としてではなく「自分の会社を変革する」くらいの意思と熱意を持ってやるしかない。何より大切なのは、クライアントにこの提案なら必ず実現できると思わせるだけの熱意である。扱うのはクライアント先の商品であっても、「うちの商品が」といった言葉が自然に出てくるくらいの熱意を持ってやれば、必ず相手の心に刺さるはずだ。
マッキンゼーに入社して3年目くらいのとき、とある先輩から「山梨さんは議論するときに条件とか否定から入るよね」といわれてはっとしたことがある。それまで日本の事業会社で社内の企画部門の仕事をしており、内部調整のためにこの条件が整っていないとできないとか、余計なリスクは取らない癖がついていたのだろう。しかし、そんな堅実な提案ばかりを心がけていては、社外に向けての提案で長期的にビジネスを成功に導くことは難しい。
コンサルティングの世界では、大きく分けて2通りの提案書がある。一つはコンペという形で同業の中で仕事を勝ち取ってくるためのもの。2つ目は仕事を取ってから、そのプロジェクトの結果を提案するものである。どちらも書き方の基本は同じであるが、冒頭に述べたようなこぎれいで結論のない提案書というのは、競り勝って仕事を得ても、プロジェクトが円満に進まずよい仕事にならないリスクがある。
コンペで落ちた場合は一度だけの損失だが、仕事を取ってからの評価は後々まで響くことを肝に銘じてほしい。