ビジネスの場面では、作家のような文章力はいらない。要点をまとめる論理力。数字を駆使した説得力。読み手の興味をかきたてるコピーライター的センス……。達人によるビフォーアフターで、「通る文書」のつくり方を身につけよう。
前マッキンゼー・アンド・カンパニー シニアパートナー 山梨広一氏

ありがちだがダメな提案書の典型とは、それを見たクライアントとの議論が「紛糾しない」タイプのものだ。

概念度が高い言葉できれいにまとめてあるだけだったり、「とりあえず、この手順で事業を展開すべきです」といった形で取り組みのプロセスだけを説明して、結論について言及しない提案書というのはあまり議論にならない。具体的なリスクや問題点が見えてこないから、クライアントも突っ込んでこないのだ。

この手の提案は結局、概念やプロセスだけを見せて、結論とそれにまつわる課題はクライアントに任せることになるため、こぎれいだが驚きがなく、長期的に見て真の問題解決には至りにくい。最終的には、「現状を分析して概念や選択肢を並べるだけなら社内でもできた。何のために外注したのか」ということになりがちだ。

だからこそ、提案書にはプロセスや分析よりもまず結論をわかりやすい言葉で書く。現況やデータに基づいて論理的にシミュレーションされた複数の可能性の中で、実現可能と思うものを3つくらいに絞り、結論としてクライアントに明示するのだ。相手の心に刺さる短いメッセージが書けないのであれば、提案のどこかに現実味が欠けていたり、論理が破綻している可能性が高い。

現実的な問題解決の糸口が示されていてこそ提案書は見た人の心に刺さり、さまざまな角度からの議論が巻き起こるのだ。

結論についてクライアントと意見が食い違う場合もあるだろう。仮にAとBという2つの結論が考えられるケースにおいて、自分はAという結論を提案したが、顧客はBを選んだとする。その際は、自分の結論を押し通すために議論すればいいというものではない。なぜAにしたかを論理的に説明しながら、Bという結論に対しても一緒に光を当てていく。