経営者、とくに伸び盛りの起業家たちは、会社のなかで日常のオペレーションをこなすだけではなく、国内外を移動して常に新しいビジネスを追いかけている。休日はカジュアルな格好で出かけたと思ったら、遊びではなく被災地でボランティアに精を出していたりとパワフルだ。
彼らはだいたい元気がよく、惜しみなく体を使う。知力とともに体力もまたリーダーにとっては欠かせない資質であり、資産なのだ。
その意味で興味深いのが、超富裕層を含む若手経営者の間でひそかなブームを呼んでいるトライアスロンだ。水泳、自転車、長距離走という3種のスポーツをいっぺんにこなす過酷なレースで、オリンピック・ディスタンスと呼ばれる短いコースでさえ合計51.5キロを走破しなければならない。
国内外いくつもの大会に30代から50代のオーナー経営者が何人も参加し、タイムを競う。創業経営者のほか大企業の2代目、3代目も含まれ、女性の姿もある。
なかには、トライアスロン以上に過酷なレースを求める人もいる。たとえば自ら創業した会社を上場したばかりのある30代経営者は、オリンピック・ディスタンスからはじまり、226キロの長距離レースを完走。その後、モロッコの砂漠を1週間かけて走りきる、世界一過酷とされるサハラマラソンに挑戦した。
マラソンやジョギングではなく、トライアスロンや砂漠のマラソンを選ぶ時点で、「健康のため」「走るのが好き」という一般的な理解をすでに超えている。ある経営者は、トライアスロンの意義について「到達不可能なくらいの目標にチャレンジすること」と表現した。それを繰り返すことで、仕事での成功のイメージを体に刻み込むことができるのかもしれない。
野村総合研究所 上席コンサルタント 宮本弘之(みやもと・ひろゆき)
東京工業大学大学院理工学研究科修了。金融コンサルティング部長。著書に『プライベートバンキング戦略』(米村氏との共著)などがある。