世襲にあたっては、金融資産や実物資産とともに、実にさまざまな知恵が相続されているのである。NRIの宮本弘之・上席コンサルタントが証言する。
「いまは親の代からの事業家でなくても、企業を興して大きく伸ばす人が増えています。私たちは『突然の金持ち』と呼んでいますが、こういう人たちが悩むのは超富裕層ならではの人間関係です。会社の取引業者を含めて、人的ネットワークが以前と比べて大きく広がるからです。一方、代々のお金持ちや経営者であれば、周囲の人たちとどう付き合っていけばいいかを幼少のころから訓練されています。いわゆる家柄のいい家に育った人が有利なのは、金融資産や実物資産とともに、こうした人的資産を引き継ぐからです」
当事者たちの意識はどうか。
「後継者と目される人たちは、ごく小さいうちから『会社を継がなければいけない』という意識を持っていることが多いようです。また『親から仕事の話を聞かされることが多かった』『仕事の現場によく行った』という人が目立ちます」(柳川氏)
もちろん「親が子の将来を決められるという時代ではない」(同)ので、無理に継がせることは難しい。実際、「老舗といわれる事業家の家でも、世襲するのは当代までで、次の世代からは本人の望む職業に就かせてやりたいという声があがるようになってきています」(宮本氏)という。その場合、資本と経営を分離した大企業型の経営に舵を切る必要が出てくるだろう。
東京大学大学院 経済学研究科教授 柳川範之(やながわ・のりゆき)
東京大学大学院博士課程修了(博士号取得)。研究分野は金融契約、法と経済学。著書に『日本成長戦略 40歳定年制』などがある。
野村総合研究所 上席コンサルタント 宮本弘之(みやもと・ひろゆき)
東京工業大学大学院理工学研究科修了。金融コンサルティング部長。著書に『プライベートバンキング戦略』(米村氏との共著)などがある。