1億円の土地は「統計学」で買え
同じく経営コンサルタントの大塚 寿氏もスキル以外に大切にするべきことがあるとこう話す。
「40代に対しては、これからの時代、仕事の基本スキル以上にバランス感覚が求められるようになります」
この「バランス感覚」という言葉、昇進、昇格人事の議論に頻出する。この場合のバランス感覚とは、「常識的な尺度」ではなく、「計画」と「実行」、「売り上げ」と「利益」といった社内で二律背反になりがちな案件をうまく調整していくという意味合いが強い。
「営業部門でいえば『取引先』と『社内の関連部門』とで利害を調整する能力が必要なことがしばしば出てきます。顧客第一主義で顧客のすべてに応じようとすると、設計や製造といった後工程を担う部門でトラブルが発生してしまうことも少なくありません。そのとき、リーダーは軸足をどこに置くか。YESなのかNOなのか。A案に賛成なのかB案なのか。立ち位置をつくって、自分の旗を立てるのです」(大塚氏)
無論、リーダー的な存在が優柔不断では話にならない。部下もついていかないにちがいない。また、判断があいまいだと自身も板ばさみ状態になって苦境に立たされてしまうだろう。
では、「自分の旗」を立てるには?
20代からの経験、知識を総動員することはもちろんだが、意思決定力そのものを磨く必要があるというのだ。
大塚氏は米MBA留学時代に「ディシジョン・メーキング」という科目を受講した。この科目、「統計学」を履修した者だけが受けることができた。その理由が当初わからなかった大塚氏だが、やがてMBA的な思考メカニズムのなかでは、意思決定とはきわめて「定量的な世界」だと気づいたという。
つまり、意思決定を統計学的に行うという発想。あらかじめ意思決定の基準を決め、それを重視するウエート(数量)も決めておけば、合理的に意思決定できるということなのだ。
例えば、1億円を超える土地を買うか買わないか迷っているとき、何の基準もなければ判断は難しいだろう。しかし、「南面の間口の広さ」「土地の形」「坪単価」などの基準(と重視する度合い)を決めておけば、判断しやすい。
「大きな問題を大きいままだと決めきれないので、小分けして自分の決断ができるサイズにする。この小分けして考えるというのは心理学もベースにした判断法。40代のリーダーシップを発揮すべき立場にある人は、統計学や意思決定力に関する著作を読んだり、心理学への造詣を深めたりして、それらをビジネスの現場に生かしていくといいのではないでしょうか」(大塚氏)
学び方のポイント
1. 『論語』『老子』『菜根譚』を繰り返し読む
2. 20代で大軍を率いる武士の覚悟と信念に学べ
3. 心理学の造詣を深め、意思決定力を磨く
1962年生まれ。リクルート勤務後に渡米。MBAを取得し、現在オーダーメイド型営業研修や法人コンサルを。新刊『9割の人ができるのに、やっていない仕事のコツ』発売予定。
1957年生まれ。京都大学卒業後、東京銀行に入行。米留学(MBA取得)などを経て現職。十数社の非常勤取締役や監査役を。『ビジネスマンのための「勉強力」養成講座』など著書多数。