テレビ通販にみる購買意欲の引き出し方
当事者目線にして、消費者の意欲などの主体性を引き出そうとする手法は、様々なビジネスの場で行われている。わかりやすいのは、テレビの通信販売であろう。
最初は、魅力的な話で商品の紹介をする。そのうちに、視聴者は商品に興味を持ち始める。すると、画面に「返品保証」の文字が出て、「使ってみて、気に入らなければ、代金をお返しします」などと、言ってくる。そこで、視聴者は、「ちょっと試してみよう」と思い、商品の注文をするという具体的な行動に出る。これは、最初は話を聞いているだけの傍観者の立場から、自らの意志と判断で商品を手に取らせるように仕向けて、契約をさせる典型例であろう。
この手法では、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」をまぜて使うと、より大きな効果が得られる。これは相手に簡単な依頼をしてそれに承諾させ、徐々にそのレベルをあげていきながら、大きな要求を飲ませていく心理的なテクニックだ。
たとえば、金融商品の営業では、まず「資産をお持ちですよね」「今の税金は高いですよね」といった質問をして、相手から「はい」という答えを引き出す。そして、少しづつ質問のバーをあげて、「老後の生活に不安はありますね、だとすれば、もっと資産を増やしたいと思いますよね」という質問に対する同意を取り付ける。この2つのプロセスで客の「買う気スイッチ」を押すのだ。
さらに相手がどうすれば、資産が増えるのかを考え始めたところへ、具体的な金融商品への紹介をするのである。このように、相手が頷きやすい質問を繰り返しながら、徐々に問いかけのハードルをあげていき、具体的な行動へと駆り立てる。
一方、洋品販売の接客業などでよく見かける失敗が、こちらは商品を見ているだけなのに、いきなり、「試着もどうぞ」と突然、言ってくる店員だ。はっきり言って、ドン引きである。
こんな対応を受けると、私はすぐに店を出てしまう。まずは、相手の好みやほしいものを尋ね、気にいった服、予算などを聞き、最終的に試着という能動的行為にもっていくことが必要なはずだからだ。
ここで大事になるのが、どの段階で、試着などの能動的な行動をさせればよいのかということ。その見極めをしくじると、ドン引きという結果を生んでしまう。
相手が、物事に積極的に関わろうとすれば、自分がこの商品を使ったら、どんな結果になるのかを考える。とすれば、自ずと前向きな質問が出てくるもの。それを見逃さない。
先の金融商品の営業であれば、相手が儲かる方法を知りたいと思えば、「パンフレットはありますか?」「どのような投資法ですか?」などと聞いてくるだろう。自らの考えを口にして、物事に関わり始めてくれば、当事者目線に移させるサインとなる。
接客においては、自ら商品を手に取り、具体的なことを色々と尋ねて、複数の商品を手に取り、比較検討してきたら、押し時に入ったと考えて良いだろう。見ているだけの受け身の状態で、商品を押しても、相手は買わない。小さな同意を重ねながら、相手の買いたいサインを見極めて、大きな決断を促す行動にでる。くれぐれも相手の小さな質問の変化を見逃さない目が必要なのである。