社員の力を引き出す方法とは

徐々に親しくなり意思疎通が図れるようになると、供給部門の思考も変わりはじめた。それが「ボトムライン思考」だ。ボトムラインとは純利益のことで、サプライは精製・供給さえしていればいいのではなく、会社にどれだけ利益貢献していくかという考え方が根づいてきたのである。それに伴って、私の存在感も増していった。供給のプロセスは技術陣に任せ、私は戦略的決定に徹するという役割分担だ。

では、決定に際して何をするのかというと、生産および在庫調整などである。例えば、冬場の需要期に向けて当社の佐渡油槽所の在庫を夏のうちに増やしておくといったやり方だ。冬の日本海側、とりわけ寒さが厳しい新潟県などは灯油が必需品だ。需要のピーク時に油を運ぶとなれば傭船の料金も高い。さらに、冬の海は時化るとタンカー輸送が困難になることも少なくない。しかし、夏場を活用すれば解決できる。そうした全社的サプライチェーンの視点が生まれたのも、この時期といっていい。

もうひとつ、リスクマネジメント的発想も導入した。供給部門の人たちが目を白黒させたのは、私が「夏場から在庫を積み増すとマーケットリスクも増える」と言った時だ。原油価格が大きく下がると、在庫の価値も下落する。それを回避する手法を供給部門に持ち込んだ。原油の買い方ひとつにしても、海外マーケットの仕組みと動きを知らなければ、より経済性にすぐれたサプライ戦略は構築できない。これには時間もかかったし、苦労もあったが、もともと優秀な人材が揃っているので可能になった。

いま、この成功要因は何かと考えると、私が部門担当取締役の権限をいたずらに行使しなかったからだと思う。供給部門の人たちの言い分を否定せず、その技術と経験を尊重したからこそうまくいった。やはりリーダーは、人を理屈や権威で動かすのではなく、納得と信頼で引っ張っていくべきだ。この関係を築くことができると、会社という組織において社員の力が十二分に発揮されるということを実感したのである。

香藤繁常(かとう・しげや)
1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。
(岡村繁雄=構成)
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