ボケ始めたり入院したりする前に

認知症が進み判断能力が低下した高齢者の財産を守る備えとしては、成年後見制度と財産管理契約の2つがある。成年後見制度には、本人に判断力がなくなって親族や弁護士などが家庭裁判所に申し立てて選任される「法定後見人」と、まだ判断力があるときに親族や友人に後見人になってもらう「任意後見人」の2つがある。親族や友人に適任者がいなければ、弁護士や司法書士などの専門家に頼むこともできる。この制度を使えば、後見人が知らないうちに契約してしまった高額商品の契約を取り消したり、預金を後見人しか下ろせないようにできる。

任意後見は本人が認知症にならなければ始まらない。が、財産管理契約は認知症にならなくても、身体が不自由になったり、入院したりして、財産管理を自分でするのが難しくなった場合に利用する。本人に代わって預金通帳を預かって管理し、家賃、税金、入院費などの必要な支払いを行い、本人に生活費を届けたりしてくれる。

この財産管理等契約を任意後見契約とセットにして、1通の公正証書で契約をしておくと便利だ。判断能力が不十分になったときに、家庭裁判所に申し立てて任意後見を開始してもらい、その時点で財産管理契約から移行すれば財産管理が間断なくできるわけだ。

親が認知症になると医療費や介護費用がかかるが、こうした負担を軽減する制度や給付を知っておこう。認知症などの所定の精神疾患の通院医療費を原則1割負担で利用できる「自立支援医療(精神通院医療)」と介護保険の介護サービスの自己負担額の1カ月の合計額が所定の額を超えた場合に、超過分の払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」だ。これは医療費の健康保険にもある高額療養費制度の介護版といえる。さらに1年間に払った医療費と介護保険の利用料が一定の金額を超えた場合に超過分が払い戻されるのが「高額医療・高額介護合算療養費制度」。認知症の介護はラクではない。制度をうまく活用しよう。

黒田尚子(くろだ・なおこ)
CFP、一級FP技能士、消費生活専門相談員
株式会社日本総合研究所に勤務後、1998年FPとして独立。個人向けの相談業務、セミナー・FP講座等の講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆など幅広く行う。消費者問題にも注力
(吉田茂人=構成)
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