――まずは何からとりかかられたのですか。

ストーリーを描くことです。そのうえで自分の治療計画を立てました。『幸せはガンがくれた』の著者、川竹さんがNHKのディレクターをしておられたときに手がけた『人間はなぜ治るのか』というドキュメンタリー番組があります。そのなかで、脳腫瘍をイメージ療法で治したギャレット・ポーターという少年が出てきます。

ポーター少年はお父さんといっしょに「がんをやっつける」ことをテーマにしたストーリーをつくってテープに録音し、繰り返し聴いていました。大好きなスターウォーズにみたてて白血球ががん細胞をやっつけるというストーリーです。それを読んで僕がこれまで主に経営者の人たちに教えてきた課題達成法とまったく同じだと思いました。最近この手法を一般の人でも使えるように本を書いたのですが(『ストーリー思考』ダイヤモンド社刊)、まず自分に「都合がいい」現実を思い描いて、そこから得られた発想を現実の行動シナリオにしていくフューチャーマッピングという手法です。

――どんなストーリーを描かれたのですか。

僕の場合はメラノーマでしたので、「メラノーマ君をハッピーにする」という物語を描きました。そうすれば彼は僕を必要としなくなると思ったのです。知らない人には突飛に聞こえるかもしれませんが、フューチャーマッピングでは「誰かをハッピーにする」物語を描くこと(利他の法則)はごく普通の作業です。

それから、この本でいうと「抑圧された感情を解き放つ」ための内省の作業に入りました。この本の著者は「許す練習」をすすめていますが、僕の場合は内省を通じて謝りたいと思っていることをひとつひとつ思いだし、心のなかで謝罪していきました。飼っていたとかげを誤って踏んで殺してしまったこととか、母親を思い切り噛んでしまったこととか、そのとき思い浮かんだのは子どものころの自分でも忘れていたような小さなことばかりでした。大人になってもっと悪いこともやっているんでしょうけれど(笑)、心から謝りたいと思ったのは思いもよらないことだったんです。ほとんど言葉を交わすことのなかった祖父のこともなぜか思い出しました。そういう過去の内省体験が終わると、ポジティブな気持ちで治療計画を立てることに集中できるようになりました。(後編に続く)

神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント。上智大学外国語学部卒業。ニューヨーク大学経済学修士。ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験に合格、4年次より外務省に勤務。その後、戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。ビジネス界だけでなく、出版、教育などさまざまな分野で指導的役割を果たしている。『全脳思考』(ダイヤモンド社)『2022-これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、など、著書多数。訳書を含めた累計出版部数は250万部を超える。最新刊は『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)。
関連記事
最善のがん治療は「直感」が教えてくれる
末期がんから自力で生還した人たちが実践している9つのこと
がんを克服するための感情マネジメント
余命宣告から「自然治癒」に至った事例が放置されてきた理由
お金、仕事、相談相手……もし「がん」と診断されたら