重大事故を想定した実地訓練

同発電所の林勝彦副所長は、過去に福島第一原発での勤務経験がある。福島第一事故の教訓は絶対に生かすべきという林副所長は当時を振り返りこう話す。

敷地の海側に15メートルの防潮堤を建設。

「単身赴任で3年余り勤務していました。浪江町での寮生活でしたが、その無聊を慰めてくれたのは、地元・浪江町の繁華街での買い物や飲食でした。そこでお世話になった人たちを、故郷から追い出すことになってしまったのです。安全対策に妥協は絶対に許されません」

福島第一の事故では、後に非難の的になった“想定外”という言葉が使われた。確かに、全電源喪失と、それによる原子炉の冷却不能は初めての事態だったろう。だが「そのような最悪な状態でも『深層防護』の考えのもと、設計ベースとそれを超える状態を想定し、各層の厚みを増すことによって事故を防ぐ。これが今回の安全対策の基本的な考え方です」と、林副所長はいう。

予想されるリスクが、設計ベースでは被害を阻止できるはずだとしても、自然災害は往々にして人知を超える。そのことを設計思想に組み込み、従来取り組んできた安全対策の「多重性」に加え、「多様性」や「位置的分散」を重視するという考え方である。再稼働となれば、石橋を叩いて、もう一度考え、さらに強く叩いてから渡る必要がある。

そしていま、柏崎刈羽原発に隣接したBWR運転訓練センターでは、原発運転員のチームによる訓練が精力的に行われている。同社の後藤好美取締役訓練部門長は「シミュレータを用い、さまざまな運転状況に応じた操作を身につけてもらいます。福島第一原発の事故以降は、より厳しく条件設定した課題での訓練となりました。それを繰り返すことによって、運転員の技量が格段に向上していきます」と説明する。

実際、発電所の中央制御室を忠実に再現したスペースはリアルだ。訓練中、発災のアラームが鳴り続けるなか、当直長を中心に8人の運転員たちが制御盤(パネル)を見つめながら情報を共有し合い、冷静な行動を取っていた。被害が、原発内にとどまらない場合に備えて、周辺自治体は住民へ避難勧告をしなければならない。福島第一原発事故の際に、自治体への通報が遅くなった反省を踏まえ、柏崎刈羽原発では月に一度の総合訓練で通報訓練を行うとともに、今年11月には新潟県原子力防災訓練にも参加している。

さらに外部電源や非常用の電源を喪失した場合の電源供給訓練、原子炉を冷却するため代替注水ポンプ設備や消防車などによる注水訓練、地震後のアクセスルート確保のための瓦礫の撤去訓練など、重大事故に対応したさまざまな訓練が行われている。