最後は「人」という意味
もちろん、電力業界全体としても対策を進めてきた。今年10月1日に設置された電力中央研究所原子力リスク研究センターでは、確率論的リスク評価(PRA)の手法を駆使して、事故発生確率の低減をめざす。所長には、マサチューセッツ工科大学で教鞭を執り、この6月まで米国原子力規制委員会委員を務めたジョージ・アポストラキス氏を招いた。この分野の専門家に大所高所からのアドバイスをもらい、電力各社トップとの意見交換も行うことで、リスクマネジメントの強化を図りたいという。
一方、災害発生時の支援体制も日本原子力発電の原子力緊急事態支援センターによって充実しつつある。その大事な役割が、災害収束活動に必要な資機材の送り込みだ。とりわけ高放射線下での作業が懸念される現場で活躍する偵察用、作業用ロボットへの期待は高い。現在は、アメリカ製および日本製のものが準備されており、福井県敦賀市にある操作訓練施設で各原発から訓練生を受け入れ、放射線測定や障害物撤去などのノウハウを学んでいる。原発事故という大災害への対策を川上と川下の両方からサポートする仕組みだと考えればいい。
福島第一原発の事故は、原子力の“安全神話”の終焉につながった。ただ図らずも、その過程で浮かび上がったのは、最後まで原子力発電所にとどまり続け、未曾有の悲劇をギリギリで食い止めようとした人たちの覚悟だったといっていい。この間の安全対策も、そうした現場の姿があったからこそ進めることができた。つまり、最後の砦は「人」だということである。どんなに万全なシステムを導入したとしても、ヒューマンファクターの重要性は不変である。