“よそさん”に欲しがられる人材になれ
また、吉野氏にはもう一つ独特な持論がある。「吉本興業40歳定年説」である。
「どんな会社にも言えることではありませんが、吉本のように新しいことを作っていくエンターテインメント企業では、40代以降の頭と感性は通用しません。もちろん、そこまで培ってきたキャリアは若い人にはないもので、非常に意味のあるものです。でも、第一線ではやっていけないと思っているんです。だから、自分の部下には『よそさんから欲しがられる人間になれ』『40歳で定年だと思え』と言っています。吉本の看板や、ポジションにこだわるんじゃなく、経験を糧にキャリアアップしていけるような人材になってもらいたいんですよ」(吉野氏)
吉野氏の教えのとおり、優秀な部下はみな40歳前後で他社に引き抜かれたり、新しいビジネスを始めたりして、巣立って行くという。ともすれば優秀な人材を社外に流出させているようなものではないかと思ってしまうが、心配は無用だ。
「デキる社員は、立つ鳥あとを濁さず。円満退社して、吉本のいい情報を持って外に出て行ってくれるので、それを聞いた優秀な人が『そんな吉本に入りたい』と言ってたくさん入ってきてくれるんです。だから僕は、部下たちを拍手して送り出しています」(吉野氏)
優秀な人材が育つには、それ相応のすばらしい環境が必要だ。それをわかっているからこそ、優秀な人材が出ていけば、次の優秀な人材が吉本の門を叩いてくれる。デキる社員を送り出すのは、人材の良い循環を起こすことでもあるのだ。
次回は、吉野氏が吉本興業ならではの接待術・コミュニケーションテクニックについて語る。
吉本興業株式会社代表取締役会長。1942年大阪府生まれ。関西大学を卒業後、65年に吉本興業入社。総務部、制作部を経て、営業部CM企画課長に。87年に広報室長、94年にセールスプロモーション部チーフプロデューサー、2001年に取締役、そして05年に代表取締役社長となり、09年4月より現職。