理想となる医師像の一つを提供したい
私は、山崎豊子さんの小説『白い巨塔』の主人公、財前五郎の外科医としての美学というか格好いい部分に憧れました。手塚治虫さんの漫画の『ブラック・ジャック』に憧れて医師を目指す人もいます。私がメディアからの依頼をなるべく断らないようにしているのは、少し格好よく言えば医師として社会に貢献し、理想となる医師像の一つを提供できないかと考えているからです。
医師として、乗り越えるのが困難な壁にぶつかることもあります。私は、その度に、元プロレスラーで参議院議員のアントニオ猪木さんが引退セレモニーで読み上げた「道」の次のような一節を思い出し、自分を奮い立たせてきました。
「この道を行けば どうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 踏み出せば その一足が道となり その一足が道となる 迷わずいけよ 行けば分かるさ」
教授室にもこの言葉を掲げていますし、この連載のタイトルにもその一部を使わせていただいています。強い志があれば、たとえ失敗してもまた立ち上がって道を進み続けることができます。
私たちが学生の頃とは違い、多くの医学部がオープンキャンパスを実施し門戸を開いています。今年の夏休みには、母校の埼玉県立浦和高校から医学部を目指す3人の高校生が私の手術を見学しに来ました。医学部を目指す人は、オープンキャンパスなどをうまく利用して、本当に世のため人のために医師を目指す覚悟があるか考え、患者に何か聞かれたら答えられないことはないくらいの知識と経験を磨く努力をして欲しいですね。
順天堂大学医学部心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。