しかし安心するのはまだ早い。これまで何度も引き合いに出している23万円の年金を本当に受け取ることができるのか、という大問題が残っている。

森永さんは「23万円という金額自体にはあまり意味はない」と指摘する。「重要なことは絶対額ではなくて周りとのバランスです。OECD(経済協力開発機構)が公表している相対的貧困率という指標の貧困の定義を簡単にいえば、世間の半分以下しか収入がないとみじめに感じるということ。そこで厚生労働省は所得代替率を50%以上に保つと言い続けている。現役世代の収入の半分に相当する年金額を約束するというわけです」。

それが23万円の正体である。ところが「そこには重大なインチキが隠されている」と森永さんは憤る。もらい始めは確かに50%以上に保たれているのですが、すぐに50%を割ってしまう。「マクロ経済スライド」という仕組みにより毎年0.9%ずつ年金給付の水準を下げることになるからだ。0.9%の内訳は年金を支える現役世代の減少分0.6%、受給者の平均寿命が延びて年金の支払いが増える分0.3%。

そうした仕組みがあるにもかかわらず「マクロ経済スライドは政治的な思惑があって導入以降一度も発動されておらず、年金額は7.2%の割高な(本来額より多く払っている)状態にあります。さらに物価スライドがデフレによって未実施になっている部分が2.5%あり、およそ10%も多く年金が支払われているため、猛烈な勢いで年金積立金の食いつぶしが起こっています」(森永さん)。このままではあと10年くらいで底をつき、所得代替率50%確保は夢の話になる。「積立金が枯渇したあとは、支給額がドンと下がり、ざっくりいうと今の3分の2ぐらいの水準、つまり23万円が15万円になりそうです。今40代の人なら、支給開始時点からすでに3分の2になっているでしょう」(森永さん)。