台湾へと伝わった、日本の介護
世界に発信できる力を持つのは福祉機器だけにとどまらない。これから高齢化社会を迎えるとみられるアジア諸国が、日本型の介護を参考にする動きがはじまっている。
「中国の高齢者数は、2010年時点で1億1354万人。それが2050年には3億3131万人まで増えると予想されています。また韓国は、2010年の高齢化率が11.1%ですが、2050年には34.9%まで上昇する見込みです。」
国連の資料によると、中国・韓国に限らず、2050年にはシンガポールの高齢化率が31.8%、タイが25.1%、インドネシアが19.2%など、アジア諸国の多くが日本と同じ高齢社会になると見られている(※5)。こうした見通しの中で、日本の介護事業者もすでにアジア諸国へと目を向けている。
例えば、群馬県高崎市を拠点とする社会福祉法人「しんまち元気村」。その社員が数年前に台湾を訪れた際、介護サービスの未発達さを目の当たりにしたという。施設ではお年寄りの身体拘束が行われ、機器もそろっていなかった。
それをきっかけに、「しんまち元気村」が台湾で介護技術講座を行うと、現地の人から評判となった。やがて、台湾の医科大学の教授や政府の福祉関係者に向けた技術講座も開講。この活動や現地調査が元となり、「しんまち元気村」は、台湾の国立介護施設と2012年1月に友好提携施設契約を結んだ。
「『しんまち元気村』の例は、日本の介護の輸出を考える上でモデルケースになるでしょう。台湾も今後、急速に高齢化が進むと考えられており、だからこそ、日本の介護技術やシステムに対する需要があったようです。『しんまち元気村』は現在、介護施設だけでなく、現地の大学とも提携して人材育成のノウハウを伝えています」(同)
日本からアジア諸国へ。日本の高い技術力を活かした福祉機器はもちろん、施設運営や介護のノウハウが、その国に適した介護モデルづくりに役立つこともあるだろう。
「反対に、日本型の介護を学びに海外から留学してくる若者も増えるでしょう。それほど日本の介護は発達しています。日本からアジア諸国へ輸出するものとして、あるいは日本に人を呼び込む可能性もあるかもしれません」(同)
一斉に高齢化が進むアジア諸国で、日本独自の介護モデルが一般的になる可能性は高い。そのため、日本型の介護モデルはすでに「アジア型」とも呼ばれている。
「アジア諸国に日本の介護モデルを伝える上で、課題もあります。北欧やアメリカに比べれば地理的に近いとはいえ、どの国も日本とは生活や文化がそれぞれ違いますよね。あくまでも、その国にあった介護モデルづくりを後押しすることが大切です。そのためにも、まずは日本型の介護モデルを早期に確立し、その知見を少しでも多くのアジア諸国に活用いただくことが先決だと思います。」(同)
世界でも稀といえる、急速な高齢化が進んだ日本。同じようなケースが、今後多くの国で起こる事が見込まれるからこそ、日本の介護への取り組みは世界から関心を寄せられている。その課題を解決しながら「可能性」に変えていくことが重要であるといえよう。
※5 UN「World Population Prospects: The 2010 Revision」