――なぜ、私たちは、平均値や前年比が気になるのでしょう。

【鈴木】それは、1番比べやすいからです。例えば、何かを説明するとき、われわれはよく、“一口で言うと”という言い方を使いたがります。相手もそれを聞きたがります。本当は一口では説明しきれないのに、そうした言い方で分かったような気になる。平均値と比べたり、前年比を持ち出すのも、これと同じようなものでしょう。

平均値は、いくつかの対象をそれぞれ一定の時点で断面にし、量的に比べるときに1つの目安になります。あるチェーンと別のチェーン、あるいは、あるゾーンと別のゾーンを現時点で比較するときなどには、それぞれの平均値をとればいいでしょう。しかし、個別の店舗の場合、A店とB店とでは周囲の環境も、お客様の数も、競合状態も全部異なります。ほかの店で売れているから自分の店でも売れるとはかぎりません。

モノ余りで消費が飽和した時代には個別の店舗については1店1店の質が問われます。それには個別に手を打っていかなければなりません。やみくもに全体の平均値や他店のデータと比較し、それに近づけようとしたりして振り回されると、自分の店の顧客ニーズを見失う危険もあります。初めに平均値ありきではなく、個別に質を高め、結果として全体の平均値が高まっていくという発想が大切なのです。

売り上げにしても全体の平均値とは別に、それぞれの店舗には顧客ニーズを満たし、機会ロスを最小化できる絶対値があるはずです。平均値や他店の数字に目を奪われずに、自分の店の絶対値はどこにあるのかをしっかりと見極めることです。ほかの店と比べていいか悪いかという相対的な比較はお客様の側がすることであって、店側がすることではない。来店するお客様にどんな商品やサービスを提供すれば、より満足してもらえるのか。各個店が絶対を追求して壁を破ることが何より重要なのです。この個店を、個人の取り組みに置き換えると、まったく同じことが言えるのです。