仕事はつらくて苦しい。それでこそ正しい

――さて、先ほどは、まえがきについて、ややほめすぎてしまいましたが、実はあとがきも今の時代にみんなが知りたいことです(笑)。危機の時代の経営者の行動について、ここまで具体的に話す人はあまりいません。

【柳井】詳しくは本を読んでいただいて(笑)。ただ、大震災のとき、政府も東電も、まったくダメな大人の典型のような行動だった。それに対するいきどおりがあって、あとがきを書かなくてはいけないと感じたのです。

経営者として先頭に立つ。従業員、社会に向けて、第一声を発する。現実を直視して、受け止める。自分たちに過酷な現実であっても、受け止めて、何らかの言葉を出す。従業員を意気消沈させないように「今は厳しい状況かもしれないが、いずれはこうしていく」と伝える。

危機、災害は必ずやってきます。平時のうちに準備をして、パニックを起こさず、淡々とやっていく。危機の時代に必要なのは平時における準備です。

――この本は確かに若い人が読んだほうがいいような……。ほかの経営者や年寄りのビジネスマンは「なんだ、こいつは。洋服でちょっと当てたからといって、いい気になるな」みたいなことを感じるかもしれない。
ファーストリテイリング会長兼社長 
柳井正氏

【柳井】はは、そうでしょう。僕は若い頃からストレートにモノを言いすぎる。生意気だと評されてましたから。今でも、まだ言われるけれど……。

私は若い人に対して説教をするつもりはない。希望を持て、自分で自分の希望をつくれと言っているのです。私だって、若い頃はフリーターだったし、縁故入社で入った会社をすぐに辞めてしまって、ダメなやつと思われていた。将来のことなんて何も考えていなかった。他人に説教する資格なんてありません。ただ、仕事を通して研鑽を積んでいくうちに、仕事が面白くなって、一人前の社会人になることができた。私を育ててくれたのは仕事であり、社会です。大学生でも、若いビジネスマンでもいい。今、困っている人、将来、こういうことをやりたいけれど、果たして、どうしていいかわからないという人に読んでほしい。

今、若い人のなかで、「頑張らない生き方」が流行っているとも聞きます。しかし、本当ですか? 頑張らないで、いったいどうするんですか?

私は「生きる」ことはすなわち頑張ることだと思うし、仕事とはつらいことだと信じている。確かに、仕事はつらくて苦しい。しかし、それでこそ正しいのです。楽に生きていきたい、楽しく仕事をしたいと言っている人は現実を見つめていない。いい仕事をしようと思ったら、せいいっぱい頑張らないといけない。

若い人って自信を持っていないんじゃないでしょうか。それは謙虚なこともあって、自信を持つことに遠慮しているんだ。もっと自分自身に期待していいんですよ。遠慮しないで自分に期待して、世の中を渡っていってほしい。

日本を復興するのは年寄りじゃない。政治家でも財界人でもない。復興の主役は若い人ですよ。まちがいなく。

(野地秩嘉=インタビュー・構成 岡倉禎志=撮影)
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