「それは絶対にしません」

「フェア」であることを藤井氏は重視する。初めて価格を300円に下げて販売する際に、景品表示法に則り、500円で1冊売るという実績を残した上でプロモーションを実施したのもその一環だ。遵法であり公正な状態を常に意識している藤井氏は、自分の本を自分で買い上げてランキングを上げるという「電子書籍の市場ではよくありそうな」行為とも無縁だ。

【藤井氏】それは絶対にしません。プラットフォームを試してはいけない。チャレンジする相手が間違ってますよね。オンラインの中で活動するときには、嘘をついていないとか、違法行為をしていないとか、無用な緊張感を持っていない状態であることが大切です。もし動員をかけて本を購入していたとしたら、あちこちで書くコピーのキレが悪くなります(笑)。「あ、痛たたた」と感じてしまう。その感覚が溜まってくると、人に対しても全力で良いものは良いと褒められなくなる。私はこれから、あと2,3年は多分、「Best of Kindle2012」の小説・文芸部門で1位でしたと何十回も書くし、口にすると思うんですが、緊張感を伴う行為をするとやましくなって、せっかく取ったアワードなのにどこかの時点で使えなくなっちゃうんです。

水面下の「インチキ」は、読者になどわからないと思ったら大間違いだ。アンフェアな行為は澱のように蓄積し、じわじわと異臭を放つ。やがて、作品にも作者にもダメージを与え、持続して良質の作品を送り出すことは難しくなるだろう。

藤井氏にはたくさんの武器がある。SF小説に欠かせない想像力、電子書籍制作にことかかない知識と経験、消費者心理を客観的に判断できる冷静かつ合理的な目、そしてフェアネス。このフェアネスこそが藤井氏が持つ多くの武器の能力を最大限に引き出し、多くのファンを生んだ源泉のように感じる。

●次回予告
藤井さんは作品の売り場――『Gene Mapper』の直販サイトを自分で立ち上げた。それは単なる売り場ではなく、blog, Twitter, Facebook を活用する藤井さんのマーケティング活動の起点にもなっている。藤井さんは「自分の作品を読んでほしい」という思いを、「思う」だけでは終わらせない。次回第3回《藤井太洋「電子書籍」の広め方》、10月15日更新予定。

(撮影=プレジデントオンライン編集部)
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