けっきょくは顧客が積み重なっていかなかった

安田佳生●「ワイキューブ」代表取締役社長。1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、90年ワイキューブを設立。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけ、社員研修事業、広告企画制作事業なども好調となった2007年には売上高約46億円を計上。オフィスにワインセラーやバーを設置するなど独特の福利厚生でも知られ、就職人気企業ランキングでは有名大手企業にまじり、20位内にランクインしたこともある。『千円札は拾うな。』など、著書も多い。

借り入れはどんどん増えていった。誰からも驚かれると思うが、利益が1億そこそこしかないにもかかわらず、数十億円を借りていたのだ。しかも無担保だ。もっとも、オフィスも自社ビルではないし、担保となるようなものは何ひとつもっていなかった。

いまとなってみれば、なぜ銀行がそんなに多額の資金を貸してくれたのかわからない。おそらく、私たちの未来に投資をしてくれたのだろう。私は銀行に対しても常に、人とブランドで企業は必ず伸びる、だから自分たちはそこに投資をするのだと話していた。

06年の段階で、採用のマーケットに限界があることには気づいていた。とくに新卒のマーケットでは、競合他社も増え、かなりの値段のたたき合いになっていた。採用事業だけで売り上げは30億くらいあったが、これが限界というのが実感だった。

それまで私たちが新卒採用のスタートを手掛けた中小企業は2000社くらいになっていたが、けっきょくは顧客が積み重なっていかなかった。

せっかく啓蒙して育てても、3年くらいするとやり方を覚えて、自分たちでも採用ができるようになる。そうすると私たちより安い競合他社に乗り換えるか、本体である毎日コミュニケーションズへいってしまう取引先もあった。私たちにコンサルティング・フィーを払わずに済むからだ。

採用支援の市場では、リクルートの商品の価格が圧倒的に高かったが、私たちのコンサルティング・フィーはさらにその2倍していた。それでも、私たちの場合、媒体を使って顧客をサポートするソフトを売っているのだから、高いのは仕方がないという感覚だった。

たしかに、リーマン・ショックの影響は大きかった。だが、それよりも前の段階で構造的に、もう私たちの事業は駄目になっていたのだ。新卒採用にプラスして、大急ぎで新しい商材をつくる必要があった。