企画書を作成するに当たって、田中さんから「表現力」に関してアドバイスがあった。企画趣旨の冒頭には提案相手の共感を誘う言葉を持ってくることだ。個人的な体験からの思いを入れる、「へえー」と思わせるエピソードを置く、最新の公的データを示す、などを相手の性格によって使い分ければよい。

田中さんの授業はここで終了。1週間後、内林くんは4つの企画をそれぞれA4・1枚ずつにまとめてきた。宿題はきっちりやる男である。提出する相手は田中さんではなく、編集次長の今井道子さん。内林くんのリアル上司だ。

内林くんの企画タイトルは、(1)「仕事も成果もアップ!?  夫婦愛を再加熱する『ノスタルジーデート』のススメ」、(2)「経営トップが激白! 私が本気ですごいと思ったライバル社の『アノ製品・サービス』」、(3)「なぜあの上司は厳しく叱るのに人気者なのか」、(4)「朝からカレーは序の口、モーニングステーキも! グラビア『社長の朝食』」の4つ。それぞれに企画趣旨と構成案を付けてある。

「どれも面白い。(1)以外は『プレジデント』向きの企画だね。(3)はひねりがある。(2)と(4)は取材が難しいけれど実現可能ならば『面白い。やろう!』となるはず」

ほぼ手放しの絶賛である。打率7割超えだ。よかったね、内林くん。

(2)の企画趣旨で冒頭に書いた「私事ですが、最近生活家電をまとめて買うことになりました。(中略)本当に優れた製品は何なのか。それは自社の製品を宣伝するCMでは知ることができません」という切実な文章に、今井さんは「なぜまとめ買い?」と敏感に反応。「実は結婚するんです」と電撃発表した内林くんに拍手が起きる。この勢いで企画が通ってしまいそうだ。

口下手だがユーモアセンスを内に秘めた内林くん。しゃべりは立たなくていい。たくさんのアイデアから練り上げた企画が1人で立ってくれる。企画会議のヒーローになれる日は近いぞ。

(永井 浩=撮影)
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