地下6メートルに広がる「土の迷路」

実はこの場所にはもうひとつ地の利があった。地下6メートルに、誰かが掘った土室(穴倉)があったのだ。偶然なのか、新介が知っていたのかはもはや分からない。

この一帯は本郷台地といって、関東ローム層の一角となる。関東ローム層は、地盤が強固で吸湿性が高いことから、地下は年間を通して一定の温度を保っている。その特徴を利用して、米糀づくりのための土室がよく掘られていた地域だったのだ。

米糀は、米と合わせて熟成すれば醤油や味噌、甘酒になる、いわば「発酵の素」である。新介も土室で米糀をつくり、これを使って甘酒や味噌、納豆、どぶろくなどを製造して売りはじめた。それぞれ、はじめた時期は異なるようだが、正確なところは分からない。分かっているのは、甘酒の売れ行きはかなり良かったことだ。